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Rendezvous02 ホスト系アサシン08 反省しない男
──チュッ
ん?
なんか、今、ほっぺにすんごく嬉しいことされなかった?
ミチルは日差しの明るさを感じて、眠い目をようやく開ける。そうして見た景色は……
「おはよう、ハニー!」
激烈イケメンの、どアップ笑顔だった。
「のわああぁっ!」
あまりの衝撃にミチルは思わず飛び起きた。声をかけた張本人のアニーはベッドのへりに頬杖をついて笑っていた。
「ミチル、よく眠れた?」
聞かれてミチルは部屋がすっかり明るくなっていて、温度もかなり上がっているのを感じた。
「今、何時?」
「うん?お昼ちょっと前」
マジか。そんなに寝ちゃったんだ……
頭はスッキリしている。体の怠さももうなかった。
「とりあえず、顔洗っておいで。ご飯にしよう」
「うん……」
ミチルはベッドから降りて洗面台へと向かった。そこには綺麗な水がボウルの中になみなみと注がれていた。
「ありがと……」
「いいえ、顔だけでも洗うとスッキリするでしょ?」
「うん」
ようやく覚醒した頭でミチルはアニーの顔を見る。
──眩しい!
金髪が光に透けて発光しているかのように輝いている。碧い眼がまるで青空のように澄みきっていた。
──エグい!!
ミチルは目の前のイケメンに目がチカチカしていた。
「ま、簡単なものだけど食べてよ」
「う、うん……」
アニーが用意してくれたのは、焼いた丸パンにチーズが一欠片。それから目玉焼きが半分。コーヒーがいい香りの湯気をたてている。
「ごめんね」
ミチルがいなければアニーは卵をひとつ食べられたのだろう。そんな想像をして謝るとアニーは笑っていた。
「いやだなあ、遠慮はなしだよ。先にゴチになったのは俺の方だしぃ……」
ちょっと、それ蒸し返すのやめてもらえません?
「もう、他人じゃないし!」
だからあああ!
全然反省してないじゃん、こいつ!だが、待てよ。
アニーはミチルに気を使わせまいと、そんな冗談ばかり言っているのだろう。
心臓が持たないが、その優しさをミチルは有り難く頂戴することにした。
「お言葉に甘えて、いただきます!」
「はい、どうぞ」
そうしてミチルはほぼ一日ぶりの食事にありついた。たいした量ではなかったけれど、お腹と心は満たされた。
「それで、ミチルはこれからどうしたい?」
コーヒーを飲みながらアニーは軽い調子で切り出した。
前にも思ったが、この質問ほどミチルの気が重くなるものはない。
最終的には元の地球に戻りたい。そのための方法を一緒に探す約束をした人もいる。
だが、昨日聞いた話ではそれもどうやら難しそうだ。
「出来れば、えっと、カエルレウム……に戻りたいんだけど」
「ああ、なんだっけ、そこの下級騎士と約束したんだっけ?」
「うんまあ。すごくいい人で一緒に帰れる方法を探そうって言ってくれたんだ。それに──」
あの後ジェイはどうなったんだろう。巨大なベスティアを退治したんだ、ちゃんと報告できたんだろうな?
また書類が差し戻されたりしてないよな?
ミチルはジェイのぽんこつ生活を思いやって心配していた。
そんな表情が出てしまっていることで、目の前のアニーは少し声の調子を落として尋ねる。
「その騎士って男、ミチルのカレシ?」
「どええええっ!?」
思いもよらない言葉に、ミチルは盛大に立ち上がって叫んだ。
アニーは当然揶揄っているのだと思ったのに、なんだか顔が真面目だった。しかし、その顔の真意を考える余裕は今のミチルにはない。
「そんなわけないでしょ!ただ最初に会って意気投合したからできれば合流したいの!」
そう。ほんとにそれだけ。
何もわからない異世界に放り出されたのだ、信頼できる知り合いは超貴重!……ってだけ。
「ふうん。まあいいや。けど、それは難しいね。昨日も言ったけどここからカエルレウムでは船で一ヶ月かかるし、旅費も莫大だよ」
「やっぱり、そうなんだあ……」
せめて陸続きだったら何とかなったかもしれない、とミチルは希望を断たれてがっくりと肩を落とした。
「でも、手がないこともないけど……?」
「えっ、マジ!?」
微かな希望でもそれに縋りたいミチルの気持ちを見透かすように、アニーは意味深に笑った。
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