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Rendezvous02 ホスト系アサシン19  躊躇うなよ

「アニーよぉ、なんだこのガキは?」  マリーゴールドが首ねっこ掴んで持ってきたのは、しおしおと落ち込んですっかり大人しくなったミチルであった。  格好つけて窓枠に頬杖ついていたアニーは、その姿を見るなり肘から落っこちた。 「ミ、ミミミ……!」 「アニー……」  マリーゴールドはミチルのパーカーの帽子部分を無造作に掴んでおり、軽々と掲げて上下に揺さぶった。  ワインの瓶でも持つみたいに、軽々と。 「ぐえええ……」  長らく足が地面から離れているミチルは、首まで締まる形になって目を白黒させていた。 「アニキ!やめて!離してっ!」  アニーは慌てて立ち上がり、悲鳴にも近い声で懇願した。 「ほお……?」  マリーゴールドは珍しいものを見るような顔で、高らかに掲げていたミチルのパーカー帽をパッと手放す。  それでミチルは尻もちをついて、痛さに顔を歪めた。 「あいた……っ」 「ミチ──」  アニーは手を伸ばそうとして、躊躇った。その表情には困惑ともどかしさが同居している。 「アニー?」 「……」  ミチルが見上げても、アニーは戸惑いがちに黙ってしまっていた。 「ははあん、このボウズがそうか」 「アニキ、このことはボスには……」 「まだ言ってねえよ。こんなガキんちょの侵入を許したなんて知られたら、オレが殺されるわ」  ミチルには二人の会話の意味がよくわからなかった。だが、このヒグマのおじさんはミチルを見て少し態度を和らげる。 「はっは、アーちゃんもヤキが回ったな。まあ、まだ時間はある。二人で話し合うんだな」 「ど、どうも……」  ミチルが少し頭を下げると、マリーゴールドは目尻にシワを作って笑った。 「なるほど、確かにアーちゃんにゃ高嶺の花かもしれんなあ。いやいや、こいつは驚いた」  さっきから何を言ってんだ、このヒグマは。  ミチルがそんな気持ちを素直に顔に表すと、マリーゴールドは更に面白そうに笑う。 「だが、こんなとこまでお前を追っかけてきたんだ、脈ありなんじゃねえか?」 「アニキ!」  アニーは少し頬を赤らめて焦っていた。  そんな態度のアニーをミチルは初めて見た。  ……相変わらず何を言ってるかわかんないけど。 「はっはっは!あいよ、邪魔者は去るのみだ」 「……」 「──躊躇うなよ、アニー」 「……ッ」  マリーゴールドは謎の言葉を残して部屋を出て行った。  残された二人の間に沈黙がずうんとのしかかる。  アニーはまた窓際の椅子に戻って何も言わなかった。 「あの……アニー……怒ってる?」  ミチルは尻もちをついたその場所で、遠慮がちに立ち上がりおずおずと聞いてみた。 「いや……」  アニーはようやくミチルを見て、困ったように笑った。 「ちょっと、いやかなり、嬉しい……かな?」  はい、どーん!  国民の彼氏級笑顔、復・活!  ……などと、ミチルの心はいつものように一旦舞い上がったが、アニーの今の笑顔は今までとは違うような気がした。 「よくここがわかったね」 「あの、えっと、街のおじさんに聞いて!川のほとりだって言うから、そこを目指したんだけど、なんか森の中に入っちゃって!」  なんだかドキドキしてしまったのを紛らわすべく、ミチルは矢継ぎ早に説明した。 「まったく、君は無茶をするね。マリーの兄貴に見つけてもらえて良かったよ」 「あ、あはは……そうね……」 「それで、どうしてここに来たの?」 「そりゃ、あのままアニーと離れたくなかったから!」 「──!」  ミチルの言葉にアニーは目を丸くして固まった。そして、両手で顔を覆い肩を震わせる。 「ア、アニー?」 「ミチル……君は、本当に……」  アニーは顔を覆ったまま深呼吸を数回した後、顔を上げて微笑んだ。 「確かに、俺の方が性急過ぎたね。ミチルに聞かずに決めてしまってごめん」 「あ、ううん!アニーの気持ちは嬉しかったよ!でも、やっぱり申し訳ないって言うか、いきなりで心の準備もできてないって言うか……」 「まあ、何も知らない世界でミチル一人で船旅しろって言うのも酷な話、か……」  アニーは呟くように独りごちて、何かを考えた後急いで首を振った。 「いや、いいや。とりあえず、そのことは今夜の仕事が終わってから相談しよう。ミチルのペースでゆっくりと、ね」 「うん!」  アニーの言葉でようやくミチルも一息つけた。なんだかどっと疲れてしまった。それでミチルは部屋の端のソファーに腰かける。 「ところで、今夜の仕事って何なの?」  ミチルは少し怖い気持ちを隠して、なんでもないことのように聞いてみた。 「ああ、今夜は大きな取引があってね。相当な大金が動くから俺達はボスのボディーガードなんだ」 「なあんだ、じゃあ命の危険はないんだね。あのヒグマのおじさんが『テンノシシャ』か、なんて言うからさあ」  ミチルは天の使者、あるいは死者かもしれないと想像して恐怖していた。  でもそうではない。きっと異世界特有の知らない言葉なんだろうと結論づける。  だが、それを聞いたアニーの顔は途端に険しくなった。 「テン、の使者だって……?」

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