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Entracte01 ぽんこつナイトVSホストアサシン07  温泉に行こう!

 三人がたどり着いたエピフィラムという街は、ミチルがよくゲームで見るいかにも勇者が立ち寄る村といった見た目だった。景色こそ洋風だけれど、こじんまりとした鄙びた温泉郷のような風情で、少し郷愁を誘う。王都が近いわりに随分と牧歌的な村だった。村人に聞いたところ、宿屋は一軒しかないという。  そこかしこに湯けむりが漂う見た目通り、エピフィラムは湯治で有名な所らしく宿屋も一部屋しか空いていなかった。しかも部屋にはやや大きめのベッドがひとつと、片隅にソファが置いてあるだけ。 「これはアレだな、一番デカいお前がソファだな」  開口一番、アニーはジェイに顎で指図するように言った。しかしミチルはそれには反対だった。 「ちょっと待ってよ、アニー。オレたちがここに泊まれるのはジェイにお金があるからでしょ?オレがソファに寝るよ」  備え付けのソファはお世辞にも大きいとは呼べないものだった。ジェイが寝たら膝から下の足が余ってしまうだろう。一番小柄な自分が使った方がいいと言うミチルの意見は正しい。 「いやいや、ミチルをあんなとこに寝かせるなんてそれが一番あり得ないから!同時にヤツと俺がベッドインするのもあり得ないからあ!」  やや気色の悪い物言いでまくしたてるアニーに、ミチルはどうしたものかと迷ってしまった。確かに、大きめのベッドとは言えジェイとアニーが二人で寝るのも狭そうだ。 「私はソファでも構わないのだが……」  ジェイがそう切り出すと、アニーは鬼の首でもとったような顔で指まで鳴らして喜んだ。 「おお、そうか!さすがは騎士だ、エライ!」 「だが、そうするとおそらくミチルが気を遣って床で寝てしまう。それは避けなければならない最悪の事態だ」 「うん?」  アニーにはジェイが何を言っているのかわからなくて目を丸くしていた。  だが、ミチルにはピンときている。  いつかのぽんこつ流の理屈!  ミチルが最初の夜にジェイと同衾してしまった理由をジェイはそう勘違いしていたのだ。  きっちり訂正したつもりだったが、どうせぽんこつだから記憶に行き違いがあるのだろう。 「アニー殿もミチルに風邪を引かせたくはないだろう。だから狭くても三人でベッドに寝よう」 「どういう理屈だ、それは!!」 「だから──」  やばい!このぽんこつはきっとあの夜の事を説明しだす!  あの痴態を表現されるのはヤバ過ぎる!! 「わああああ!オ、オレもジェイの意見に賛成だなあ!っと!」  ミチルは慌てて二人の言い合いに割り込んだ。  それからアニーを見上げて、おねだり顔で言ってしまった。 「ね?アニー、三人で寝よう!」 「!!」  するとアニーは雷にでも打たれたような衝撃を受けて動揺した。 「そ、そんな……ミチルから3Pのおねだりなんて……ッ!」 「殴るぞお!顔以外をなあ!!」 「ミチル、暴力はよくない」 「お前も黙ってろぉ!」  アニーとジェイに順番につっこんで、漫才3Pを決めたところでミチルはどっと疲れた。 「あー、汗かいた。オレ、温泉入ってくる」  さすがの温泉郷は、宿に泊まった客なら入り放題だと言う。ミチルは密かにこれが楽しみだった。 「ジェイとアニーはどうすんの?」  ミチルが聞くと、アニーは突然ぽっと顔を赤らめて首を振った。 「お、おおお、俺は今はいいかな!?後で一人で入るよ!」 「そう?」 「……ミチルの全裸なんか見たら俺、死んじゃうよぉ」  アニーの消え入りそうな声は幸いミチルには届かなかった。 「じゃあ、ジェイ、行く?」 「うむ。わかった、そうしよう」  立ち上がりかけたジェイを目がけて、アニーはタックルするように飛びついた。 「待てえええ!」 「ふぐっ!」  おお!さすがホストアサシン!ぽんこつナイトを羽交締め!  ミチルはジェイが不意をつかれるのを初めて見た。 「てめえだけオイシイ思いはさせねえええ!ミチル、先に入ってきて!こいつは俺と後で入るから!!」 「あ……そう?」  一体何なのかミチルにはよく分からなかったが、ジェイが白目を剥いていてとても怖かったので、ミチルは逃げるように部屋を出た。 「じゃあ、お先に!」  およそ30分後、ミチルは上機嫌で部屋に戻ってきた。  なにしろこの世界に来て初めてまともな風呂に入れたのだ。日本人としてこれ以上の至福はない。 「ただいまあ」  扉を開けてミチルは仰天した。棒立ちのジェイに、アニーがまるで子泣き爺のように必死の形相でおぶさっているからだ。 「な、何事!?」 「ああ、ミチルお帰り」  真っ赤になってしがみつくアニーを他所に、ジェイは涼しい顔で突っ立っていた。 「ミ、ミチル……おかえり」  少しほっとした顔を見せた後、アニーはジェイからパッと離れる。しかし汗だくだった。 「む?鍛錬は終わりか?」 「終わりだよ!この鋼鉄脳筋野郎が!」  ぜえぜえ言うアニーに、ミチルはやっぱりよくわからなかったが風呂を勧めた。 「二人とも、温泉入って来たら?今なら誰もいないよ」  するとアニーは弾んだ声を出す。 「マジ!?じゃあ、ミチルも一人で入ったんだね?……ふ、ここの泊まり客は運がいいぜ。俺に殺されずに済んだんだからな」 「……よくわかんないけど、早く入っておいでよ」 「よーし、いくぞジェイ公!」   「わかった」  アニーは意気揚々とジェイを伴って部屋を出た。 「ふう、やれやれ……」  騒がしい二人が行ってしまって、ミチルは風呂に入ったこともあってどっと眠気に襲われた。 「眠いなあ……いっぱい歩いたしなあ……」  ベッドに腰掛けるといっそう体が重くなる。一人ではすることもないので、ミチルはベッドに横になってそのまま眠ってしまった。 「ミチルぅ!ただいま、寂しかったかーい?」  風呂から上がったアニーが部屋の扉を開けた。 「……」  だが、ミチルの返事はなかった。 「どうかしたのか?」 「シッ!」  後ろから部屋を覗き込んだジェイはアニーから「黙れ」の合図を受けて素直に黙った。 「?」 「ミチル……もう寝ちゃってるよ」 「そうか。疲れたんだろう」  ミチルはベッドの真ん中でスヤスヤと寝息を立てていた。 「やだあ……可愛い……」  アニーが萌え萌えしていると、ジェイも当然のように頷いた。 「やはり、ミチルは天使のようだ」  温泉から上がったばかりのミチルは、まだ髪が濡れていて頬も紅く染まっていた。その様は、ザ・据え膳。  アニーとジェイは思わず生唾を飲み込んだ。  それから、不思議な香りが部屋に満ちていく。 「ミチルから……」 「いい香りがする……」  夜は更けていく。

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