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Entracte01 ぽんこつナイトVSホストアサシン10 禁忌の夢から覚めて
朝の光が強くなり、アニーは眩しさに寝返りを打った。横にはあの子がいると思って。
「ううーん、ミチルぅ♡」
寝ぼけたフリして、ちょっと濃いスキンシップを試みる。
だが、ミチルのサイズに違和感が。体もやや固い。
「ミチル?」
アニーは仕方なく目を開けた。そこには可愛いあの子がいると信じて。
「む。朝か」
「……」
「む?どうした、アニー殿」
「クソがあああっ!!」
アニーは怒りに任せて飛び起きた。
何が悲しくて、ガッチガチの筋肉を触らなにゃならんのだ!
「うむ。朝の排便は大事だ。ゆっくり行って来るといい」
「バカか、お前は!イケメンはうんこなんかしねえんだよ!!」
「う……ん?」
不可解に首を傾げるジェイを放っといて、アニーはミチルの姿を探す。
「ミチル!?ミチルはドコ!?」
部屋は陽の光が充満していて、とても明るかった。だから、ある一角だけ闇に覆われていることに気づかなかった。
部屋の隅。小さなソファが置いてあるあたりが、やけに暗くて寒々しい。
「?」
アニーは目を凝らしてそこを見た。暗闇の中、更に影をまとった人物がジットリと膝を抱えている。
「ミ、ミチル……?」
もはやその姿は地縛霊。
ミチルはソファの上で膝を抱えて、俯きながら何かを呟いていた。
「ど、どうしたの、ミチル!いつから起きてたの?」
慌ててアニーはソファに駆け寄って隣に座る。
いつもなら、ほわあ!とか言って可愛く反応してくれるのに、今朝は全く様子が違って見えた。
「死にたい……」
「えええっ!?どど、どうしたの、何があったの!?」
ミチルがボソリと呟いた言葉に度肝を抜かれたアニーは狼狽えた。
そしてジェイもやってきて、アニーとは逆側に立ってミチルの顔を覗き込む。
「ミチル、どうした?怖い夢でも見たのか?」
ジェイの言葉に、ミチルはビクッと肩を震わせた後、じわわーっと涙を溜めた。
「めっちゃ怖い夢で死にそうぅうぉおうぉうおぅッ!!」
ジェイの慈愛が籠る眼差しに、ミチルは思わずぎゃん泣きしてしまった。
するとその大きな手がミチルの頭を撫でる。
「大丈夫だ、ミチル。夢じゃないか、気にするな」
「イヤだあああ!オレにはそんな資格ないんだよぉおお!」
ミチルはジェイの手を跳ね除けてソファから立ち上がり、部屋を縦横無尽に走り回った。
優しくしないでえ!オレは超絶悪いことを考えてしまったのだから!
「ミ、ミチル……?」
ジェイもアニーも、何が何だか分からずにミチルがドタバタ走るのをポカンと見ていた。
エピフィラムの宿屋を出て、あと半日も歩けばアルブスの王都・コンバラリアに着けると言う。
三人は気まずいまま黙って歩き続けていた。
先頭にジェイ、続いてアニー。ミチルは二人より数歩後を項垂れたままトボトボと歩く。
「……」
「ミチルぅ、元気出しなよ。どうせ夢でしょ?」
アニーの軽口に、ミチルはジトッと睨んでから、喉から搾り出すような声で言う。
「アニーは、オレがどんな夢を見たか知らないからそんなこと言えるんだ……」
「そりゃそうだけどぉ……」
アニーが困って笑うと、ミチルはハッとなって青ざめる。
「あ……ごめん。折角慰めてくれてるのに。ジェイもさっきは手を振り切っちゃってごめん。オレ、まじ、サイテー……」
どんどん地獄の底に落ちていくようなミチルの姿はアニーにとっては見ていられない。
「気にしなくていいよぉ!ジェイだってそうだろ?」
「む?何がだ?」
「お前はほんとに人の心がねえなっ!」
そんな二人のやり取りにも突っ込まずに、ミチルは大きく溜息をついて歩き続ける。
気まずい空気は相変わらず。その雰囲気をなんとかしようと、年長のアニーは手を打ってミチルに明るく話しかけた。
「よし、わかった、ミチル!どんな夢を見たのか話してごらんよ!」
「……えっ」
ミチルは歩みをピタリと止めて青ざめた。
「そんな風に一人で抱えちゃダメだよ!どんな夢なのか俺達に話して、そんで笑い飛ばせば大丈夫!」
「うむ、その通りだ。ミチルの苦しみを私達に分けて欲しい」
「ええっ……」
アニーとジェイの気遣いは本当に嬉しい。ミチルは胸のあたりがジィンとした。
でも。
でも、言える訳ないじゃん!
「ね、ミチル」
爽やかに笑いかけるアニーから、ち××を弄 くりたおされたなんて!
「さあ、ミチル」
頼もしく笑うジェイが、オレのズボンも×ンツも脱がせたなんて!
そんでもって。
ジェイがオレのち×××を咥え込んで、××て、××て、×××んだなんて!
アニーはオレのお××の××に指を××て、ピ──(いやらしい擬音が入ります)にかき混ぜただなんて!!
「もう、やだああああっ!」
「ミチル?」
二人が声を揃えた時にはもう、ミチルは真っ赤な顔で泣きながら走っていた。
「恥ずかしいよおおおぉ!助けてえええ!」
ミチルは森に逆戻りしていく。
「何処へ行くんだ、ミチル!?」
「一人で走ったら危ないよ!」
「うるせえええ!ついて来んなああ!!」
ジェイとアニーが止めるのも聞かず、ミチルは一目散に逃げ出した。
恥ずかしいよ、恥ずかしいよ、恥ずかしいよ!
オレってそんなにイヤラシイ子だったの!?
イケメンに挟まれて調子こいてました、すいません!!
異世界のカミサマ、ごめんなさい!
「はあ、はあ……」
無我夢中で走ったミチルは、暗い森の中にいた。
「あ、あれ?ここ何処?」
少し落ち着いたミチルは辺りを見回す。木々が生い茂る狭間から明るい光が見えた。
あれを目指して引き返せば戻れそうだ。
でも、今はまだ。
恥ずかしくて二人に会わせる顔がない。
「うああああっ!」
ミチルはこれまでの己の所業を思い出して悶絶した。
セクハラもされては来たけれど、自分もイケメンにセクハラしまくっていたのでは?
なんて事だ……
イケメンは皆のものなのに。あの美しさは分かち合うべきものなのに。
いつからオレはこんな強欲色魔になってしまったんだ!?
「あああああっ!!」
ミチルは地面をゴロンゴロン転がって悶えた。
そうして鼻先を雑草が掠める。
むず……
「!!」
ミチルは突然血の気が引いた。
やばい、鼻がムズムズする!
「ふぁ……っ」
やばい!いかん!ダメッ!
こんな一人っきりの時にくしゃみなんかしたらダメ!
ジェイ!せっかく会えたのに!
アニー!オレのためについてきてくれたのに!
「ふぁ……ッ」
ダメダメダメ駄目駄目ッ!!
二人と離れたくないよ!
強欲色魔でもいいよ!一緒にいたいんだよ!
「ふぁっ、──ぶちゅんっ!」
いやあああああ!
「ミチル?」
「ミチルー?」
ジェイとアニーがやっと森まで探しに来る。
ミチルの姿はすでになかった。
「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」
Entracte01 ぽんこつナイトVSホストアサシン 了
次回からは「小悪魔プリンス編」をお送りします。
準備のため、少しインターバルをいただきます。
再開したらまたよろしくお願いします!
【追記】
「小悪魔プリンス編」は2024年9月1日22時から開始します。
どうぞよろしくお願いします。
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