68 / 75
Rendezvous03 小悪魔プリンス14 ギャル男プリンス
真っ暗な夜から、柔らかな光が差す朝へ。
ゆっくりと白くなっていく視界から、ミチルは意識を取り戻す。
「ん……」
温もりがあった。
大きな手が、ミチルの背中と腰のあたりに置かれている。
目の前には広い胸。逞しくも、高貴さを孕んだ白い肌がそこにあった。
「んん!?」
『朝日を浴びたらおれはまた15のガキに逆戻りだ』
あいつ、そんなこと言ってなかった?
ミチルは自分を抱きしめながら眠る超絶イケメンの姿を確認した。
15のガキじゃなくて、25のギャル男がいるんですけど……
少し身を捩って見上げた先、ミチルはもの凄い光景を見た。
美しい!!
シャープな頬の輪郭に、整った鼻先。
ビシバシ伸びた睫毛。
白い肌にかかる群青色の髪の毛はサラサラと絹糸のように流れ、朝日を浴びて輝いている。
「ふぉおおぉ……」
まるで美術館に鎮座する、絵画から飛び出したような美の神がゼロ距離にいて、あろうことか自分を抱きしめて眠る。
何それ、天国じゃね?オレってば死んだ?
「ん……ミチル……」
神がオレの名を呼んだ!やっぱり死んだ?
ミチルは興奮で鼻血が出そうだった。
「んん……♡」
神はミチルの首筋に唇を寄せて艶かしいボイスを繰り出した!
「ギャース!!!」
ダメです!もう限界です!これ以上は行ってはならぬ場所なのです!
ミチルは心臓が破裂したその衝撃をもって飛び起きた。
「……うるせえな、ガキ丸出しじゃねえか、ったく」
ミチルが離れたことで、神、もといエリオットはようやくノロノロと起き上がった。
「エ、エリエリ……」
「あー……ミチル?」
エリオットはまだ眠そうに目を半分開けてミチルを見た。低血圧で不機嫌そうなイケメンもまたオツなものである。
「エリオットじゃん!」
「はあ?」
ミチルの発言を受けて、エリオットは自分の体を確認した。手の大きさと足の長さ。それから視線の高さ。それらは全てエリィの景色ではない。
「お、おお……マジか……」
エリオットはフルフルと震えていた。信じられない、と言ったような顔で自分の大きな手のひらを見つめている。
「つ、ついに、魔法が……解けたのか?」
「ええ!?なんで?」
「いや、知らんけど」
当の本人がこれだけ首を傾げているなら、ミチルには尚更さっぱりわからない。
「もしかして……」
「?」
「いや、何でもない」
エリオットはミチルを見つめながら呟いたが、すぐにそれを打ち消した。やっぱりミチルにはさっぱりだった。
「よーし!元に戻れたならこんな所で燻っていられねえ!」
エリオットは勢いよくベッドから飛び降りて、シルクの寝巻きの上をバサーっと脱ぎ捨てた。
「きぃやあああああ!」
その美しく輝く肢体はダビデかアポロンか!なんかルーブル的な像をミチルは思い浮かべて叫んだ。
そんなミチルの反応を見て、エリオットはにまぁと笑った。
「お?どうした、俺のハダカに欲情したか?わかったわかった、情けは今夜くれてやる」
「はうっ……!」
ドッキーンと胸が疼いたミチルだったが、すんでのところで我に帰ることに成功した。
「いるかあ!セクハラバカがあ!」
「……まあ、いつまでヤセ我慢が続けられるかなあっと」
エリオットは寝巻きの下も勢いよくおろした。
「ほぎゃあああ!」
目の前には全裸の美の化身!ミチルは慌てて布団を頭からひっかぶる。
「あっはっは!やっぱりミチルは愛いやつだなぁ!」
エリオットは上機嫌で全裸のまま部屋を闊歩し、クローゼットへと消えた。
「ふう、ふう……あいつ、なんて素晴らしい、じゃなくてとんでもねえもん見せるんだ……」
ミチルは布団を被ったまま、心臓のばっくんばっくんする鼓動が治まるのを待った。
だが、次の瞬間、再び現れたエリオットの姿に──
「チッ、サイズが合うのがこれしかねえ」
不満顔で現れたエリオットは、絹のブラウスにスカーフをネクタイにして、黒のベスト、黒の細身のパンツ姿で現れた。
その姿は、もちろん──
「ダイヤモンド貴公子!!」
完全にアレ。
完璧にアレ。
ジュテームって言う人のアレ!
ミチルはエリオットの貴公子ルックに目が眩んでいた。
その姿を直視できずにいると、少し強めのノック音が扉から聞こえた。
「坊っちゃま、ウツギにございます」
「おお、入れ」
扉を開けて入ってきたウツギは、少し憔悴した顔で怒りを携えていた。
「ミチル様の嬌声が漏れておりますぞ、朝までそのような行為に溺れるのは恥ずかしいと思いませぬか」
「嬌声じゃねええ!」
ミチルは否定を泣き叫ぶが、ウツギの耳には入らなかった。目の前のエリオットを見て固まってしまったからだ。
「……ぼっ!」
「よお、ウツギ。ご苦労だな」
「うぉお王子様アアァア!!!」
この日、隠されたエリィの部屋から少年(ミチル)の嬌声と老人(ウツギ)の嬌声が響いたという伝説が爆誕した。
うちのプリンスは老若構わず襲いかかる、まさに悪魔なのだと使用人達はさらに恐怖ですくみあがったらしい……。
ともだちにシェアしよう!