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真実の愛

 ドアを開き中に入って、二人は互いの顔を見た。  そしてアルフォードは前に踏み出し、草野を抱きしめた。体を少し離して草野の顔を伺うと、草野は嬉しそうに目を細めていた。 「嫌だったら言ってくれ。俺は君の気持ちを無視したくない」 「嫌だなんて……あなたがすることなら何でも好い事になるんです」  身を委ねられて若干の不安はあるが、草野らしい答えだ。  アルフォードは自分が舵を取るつもりになった。 「シャワールームの場所を教えて欲しい」 「かしこまりました」  草野は丁寧に言って、するりとアルフォードの横を抜けると、先んじてドアを開いた。  草野に案内された場所は、シャワールームというより浴室といった場所で、アルフォードを中に通すと、草野は外でタオルなどの準備をしていた。  交代で身を清め、二人は草野の部屋に揃った。  そして草野は 「男色なんて、自分の立場を良くするためのものでした。草野家に相応しい者であるために、選択肢なんてありませんでした。ですがやっと、本当に愛した人に抱かれることが出来る。私、正直な気持ちを隠さず気味の悪いものを見る目で見てもらえて嬉しかったんです。ミッチェル生まれのあなたは、家名も階級も関係なく、私そのものを見てくれたから……」  心底嬉しそうに潤ませた目を細めて、アルフォードに語りかける。草野を恐れていた頃のアルフォードに、今のような愛情はなかった。しかしひたむきに調査対象を知ろうとする姿勢は、草野の心を惹きつけていた。  こうして二人並んでいると、明らかに女性とは違う身長をしている。しかし男性らしく生きてきたアルフォードの頭の中に、男なら女を抱くべきだ、という考えは消えていた。  ベッドに背を預けた草野は、曲げ立てた両膝をくっつけて足先を開く。  恥じらいのある赤い顔は、くっつけた膝上を割り開かれるのを心待ちにしているようだ。  アルフォードはベッドに乗り、草野の顔に自分の顔を寄せた。優しく覆い被さり、草野と二人で笑みを浮かべていた。  そしてアルフォードの方から唇を押し重ねた。  草野の家で一夜を過ごした後、アルフォードは草野の処遇を決定する。  草野蒼一郎の戦時中の行為は事実であり、責任を負う必要がある。  草野家には資産の多くの没収と警察などの治安維持に関わる組織への関与を禁止した。かつての名門草野家は国への影響力を失った。  そして草野家の処遇決定から半年後、アルフォードの仕事が終わり、無事貞操が守られたまま帰国することになった。  多数の船が集まる港で、潮風に当たりながら立っていたアルフォードは後ろを向く。 「アルフォードさん!」  後ろからは草野が駆け足で向かって来ていた。  草野本人の扱いとしては、財産の没収と公的機関への就職の禁止、草野家の戸籍からの分離などが行われた。  そして今はアルフォードの仕事の手伝いをしており、同居していた。  アルフォードの一時帰国では、草野は国外に出ることが許されないため、巫洋の住居に残ってアルフォードを待つことになった。アルフォードはミッチェルにいる間も定期的に手紙を送り、落ち着いたらまた巫洋に来るつもりでいた。離れてからも何か迷い事があれば草野に問うつもりであり、草野のような優秀な人物の支えがあることを嬉しく思っていた。  家族の意向にも逆らうが、女性とも結婚せず、一緒独身として生きていく決意をしていた。  草野はアルフォードの手を取り、どうかお達者で、と上目で言う。アルフォードは次会う日のことを楽しみにしている、と額を重ねて言った。  二人の関係は巫洋にいる間だけで終わらず、妻問婚のような形を取った。  草野自身は警察やこれから作られる国防組織に就職することは出来ないが、子供の就職は禁止されていないため、家庭を作って自分の子孫を送り込み、組織内に新たな草野家を作ることも出来た。しかし草野家の者の狙う通りにはせず、アルフォードと共に生きていくことを選んだ。  社会に名を残すことなく、直系の子孫も残さず、アルフォードを公私共に支えることは、名門の草野家からすると娼婦に身を堕としたようなものだった。  しかし草野蒼一郎の顔は、これまでになく幸せそうだった。

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