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第3話
それから、特に変わらない日々が続いた。ルークは魔石を割り続ける。マテオはそれを監視し続ける。あの出来事はまるで嘘だったかのように、時間が流れていった。
ルークが無心で魔石を割り続けている時、マテオは考えていた。ルークの侵されている病についてだった。マテオの閉ざされた口から言葉が零れる。
「貴方は、左顔について知っているのですか?」
マテオの言葉にルークの手が止まる。マテオから話しかけられたのは、これで二回目だ。一回目はルークが答えなくて良かったが、今回は違った。返事をしなくてはならない。どう答えていいのかと悩むと、ルークの口は僅かに震えていた。
「いいえ、知りません。ただ死ぬことは分かります」
「そうか」
ルークの絞りだした答えに対して、マテオはあっさりとした返答であった。ルークからしたら、自分の首を刎ねられる可能性があったのにと、少しの怒りが芽生えたが、そんなものバレたら胴体と頭がおさらばだ。だから、何も感じないフリをした。
一方マテオはというと、罪悪感を感じていた。資料を見た際に六百九は、マテオと同い年であった。魔石の魔素に直接浴びすぎることで、発症する病シンセティックシンドロームに侵されているとも記載されていた。
一度罹ると、身体がどんどんと石化されていき、最終的には石となり、死んでいくという恐ろしい病である。
ルークは小さな頃から魔石割り奴隷として働いていることにより、発病したのだろう。自分達の裕福さの土台には、ルークみたいな犠牲者で成り立っている。その現実を目の当たりにして、怖じ気ついてるともいう。誰にも言えない罪を自覚してしまったマテオは、それ以上ルークに問いかけることは出来なかった。
また変わらない日々が続く。ルークの身体は限界を迎えていた。少ししかない野菜スープに、時々パンや肉の端切れがついてくる。睡眠が取れても、栄養が足りないから常に疲労状態。
ルークはそろそろ自分も魔石発掘行きになるのではないかと、不安に感じていた。思うように動かない身体。ぐらつく視界。左目辺りが石化した時よりも、死が隣に居座っている。
今日も鉛の身体を起こすはずが、足を滑らせて尻もちをついた。今までこんなことなかったのにと、ルークは不安が頭に過ぎる。
「大丈夫。大丈夫だよ」
ぎゅっと握りこぶしを作るが、言い聞かせた声は頼りなさげに震えていた。
「おはようっすアニキ!」
「おはようチャールズ」
食堂に向かうと太陽の笑みを見せてくれるチャールズに、ルークの曇天な心に一筋の光が差し込む。先が見えない未来だというのに、チャールズはいつも明るかった。
チャールズの笑みに救われる人は幾らでもいるだろう。ルークもその一人であった。今日も生き残ろう。強く心に誓った。
そんな決意を砕く出来事が起きるなんて、この時のルークは思いもよらなかったのだ。
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