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第1話 特別な意味はない
二月十四日…それは俺にとってもあいつにとっても厄介な日である。
「久…手伝ってくれね?」
「お、おう」
バレンタインの日はいつもこうだ。俺の幼馴染、七瀬修也はモテる。
十四日は朝から大量のチョコが修也の机に置かれている。
机の中もぎっしりである。
持ち帰りも大変で、気の利く女子から用意していたであろう袋を貰っている。
しかし、修也はチョコが苦手だった。和菓子を好んでいるらしく、洋菓子はあまり好んで食べない。なので友達や家族に配っている。
「今年も沢山貰ったな〜、すげぇ量」
「…もう少し、あと少し、もう少し、あと少し…」
今は修也の家にゲームをしに来つつチョコを貰っている。
あげた人は修也に食べてもらいたいんだろうが、生憎モテる幼馴染はチョコが苦手なので頂くことにする。あと俺は普通にチョコが好きです。
残すのも勿体無いし。
「てか修也、チョコ苦手なこと言えばいいんじゃね?」
「そんなこと言ったらチョコの代わりに和菓子が来そうだな、食いすぎて和菓子も嫌いになりそうだわ…まぁ、あとせっかく作ってくれたものだし食べれるだけ食べるけどさ」
先程から手作りで本命っぽいものを食べているあたり、そこら辺は責任があるらしい。
「あず○バー好きだもんな笑
好み渋いよな」
「あ○きバーは釘も打てるし最強だと思ってる」
「修也のそのあ○きバー愛は何なの?」
たまにあ○きバー愛が炸裂するところは変だと思うが、趣向は人それぞれなので目を瞑ることにする。
「そういや、修也さ課題やった?分からないとこがあって教えてくれない?後でいいからさ」
「おけー、あ○きバー1つで手を打とう」
「はいはい、仰せのままに」
「冗談」
「知ってた」
何てことのない会話でも楽しくて、この時間がずっと続けば良いのにと思う。
俺は修也が好きだ。片思いして五年くらいになる。
でも恋人になりたいとかそういう考えはなくて気持ちを伝える気はない。
「…珍し、バレンタインに和菓子が入ってる」
「へー、珍しいな 好み知ってる子なんじゃないか?」
「言った覚えないんだけどな…これ、今有名などら焼きじゃん」
今、どら焼きが美味しいと話題の店で開店時間に行かないと買えないらしい。
「うま…これ、めっちゃ美味い」
「よかったじゃん」
「ん、久も食う?」
どら焼きを半分に割り、久に差し出す。
「え、俺は良いよ!修也が食えよ」
「何だよ、遠慮すんなよ」
遠慮も何も、そのどら焼きは俺があげたものだ。
名前をあえて書かなかったから気づくはずがない。
てか気づかないでくれ。
「美味いものって人と共有したくならね?」
「それは分かる」
「だよな、はい」
「…」
なんか上手く丸め込まれてしまった。惚れた弱みなのか、修也のペースに振り回される。
「でも、名前書いてねーな…誰だろ」
「さあな〜…つか、どら焼き美味いな」
「甘さ控えめで美味いよな」
伝えなくていい、伝わらなくていい。ただ側にいたい。
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