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第7話 勇者と結婚したようです

「な、なぁ、大丈夫なのか?さっきの子、あんな態度取って……」 「……え?あぁ、メルサのことですか?良いよ、俺の大事な人を傷つけたんですから」 「いやぁ、その、そんな言い方するからぁ、誤解して……」 「誤解?うーん、俺にとっては村のみんな全員家族のように大事な人だと思っています。もちろんメルサも。でも貴方は俺にとってもっと特別な人なんですよ」 「う、うーん……」 そりゃそうかもしれない。だって俺はラシエルにとってのコントローラーだもん。言うならば司令塔だもん。それにしてもかなり自我が強めで俺がオマケみたいになっちゃってるけど。オートモードなのかな?これがいわゆる放置系? 「それよりも、村長のところに着きました。かなりクセの強い人ですけど、良い方なんです」 「へえ……」 うん。それも知ってる まるで仙人のように長生きをしている御老公で、勇者の誕生を心から夢見る乙女のような人だ 本来ならば聖剣を携えて戻ったラシエルを讃え、村の全員と祝杯をあげる そして魔王討伐の任を受ける為に、カタルアローズ王国へと出向く事になる リュドリカはまたラシエルが余計な事を言わないようにと、先に先手を打つことにした 「なっ、なぁラシエル、お願いがあるんだけど……その剣、もうお前のってことでいいから……俺のことは触れないでおいてくれない?」 「えっ、そんなこと!……出来ないですよ!これは貴方のものなのに」 「ホントにお願い……!俺には荷が重すぎるんだって……!」 若干泣きそうになりながらフードの隙間からラシエルを見上げる ラシエルが握る手さえも、無意識に強く握り返していた 「…ッ、分かりました……そこまで言うなら、俺に合わせて下さい」 「おっ、おう!任せとけ!」 ラシエルはコホンと咳払いをし、村で一番大きな村長の屋敷の扉をコンコンと叩き、中にいる人物から返事を貰うと、失礼しますと戸を開ける 「村長、ただいま戻りました」 「お~ラシエルか。してどうじゃったか?今日は何か変化はあったかの?わざわざワシのとこに出向くと言うことは……その者は?」 「この人はリュドリカさんと言います。俺の……命の恩人なんです」 「あ、はい!俺は……ん?」 何か話が誇張されてないか? 寧ろ救われたのは俺の方だよな? 「命の恩人だぁ?ラシエルよ、何があった……んん?よく顔が見えぬが、其奴はおなごか?嫁入り前の娘が、殿方とそんな堂々と手なんか繋ぎおって……」 「あっ、それは……」 リュドリカは居た堪れなくなって更に深くフードを被り直す 明らかに不審な目を向ける長老に、勇者は毅然とした態度で話した 「村長、俺はもうこの人無しでは生きていけないんです。嫁入り前と言うならば、俺はこの人と結婚します」 「ッ!?おっ、お前何言って……!?」 「ふむ、そうか?お主がそこまで言うって事はよっぽどじゃな。それならば別に構わん」 構ってくれ!どう考えてもおかしいだろ今日会ったばかりの見ず知らずのヤツとお手々繋いでランランしてる状況を!もっと村長としての威厳を見せろよ! 「そんなことより……」 そんなことより!? 「ラシエルよ。お主の片手に握るその剣は……もしや……」 「はい、聖剣です。これもこの方のおかげで見つける事が出来ました。なので一刻も早く王国に……」 「そういうことなら先に言わんかい!おぉ、遂に勇者の誕生を目の当たりにすることが出来るとは……!長生きはするものじゃな……今日は祝杯をあげるぞ!村の者全員を集めてくるんじゃ!」 「分かりました」 なんか淡々とストーリー進んでるけど、勇者とんでもないこと口走ってたよね!?結婚とか!もうちょっとそこ食い下げても良くないか!?軽くないか結婚!いや俺がまさか勘違いしてる!?結婚じゃなくて血痕!?魂に結びつくと書いて結魂か!?ソウルメイト的な!?分かんねぇよ村のケッコン事情! 口をパクパクとさせながらリュドリカは村長と勇者を交互に見やる もう話は聖剣に全て持っていかれて、村で祝杯をあげる前に一度自分の家に帰るよう言われた そして村長宅からラシエルの家までの道のりで、俺は勇者に食ってかかる 「なっ、何とんでもないこと言ってるんだよお前!ダメだろあんな冗談言ったら!」 「冗談……?俺は結構本気で言ったんですけど……」 「えっ!?そ、そうなの……?で、でも俺まだ十八だし、これから大学とか就職とか色々と……」 ないわ。そもそも死んでる 「シュウショク?」 「ごめんこっちの話」 良いのか?こんな軽々しく勇者と結婚なんかして? まあ確かに村に着いてから今までまるでバカップルみたいにずっと手繋いでて、村の住人が流石にざわつき始めてるしなんならメルサが振られただのメルサお気の毒だのとヒソヒソ話まで聞こえてしまってる!全然ひっそりしてない! 「着きました。何もないところですがゆっくりしてください。まあ手が放せないからゆっくりは無理かもですけど……」 「う、ううん。それは別に大丈夫だけどさ……」 「……兄ちゃん?誰だよソイツ」 家に着くと、奥から少年が駆け寄ってくる 小学校低学年ぐらいの容姿に、ラシエルと同じく金髪で瞳の色は濃いオレンジをしている 可愛らしい見た目のこの少年は、間違いなくラシエルの弟のタリスだ 「うっわ!めっちゃ美少年!!」 「ッ!?なんだよコイツ!!」 「ウグッ」 思わず間近で見ようとつい勇者の手を離しかけるが、後ろからお腹に手を回されグイッと強く引かれる タリスはビクビクしながら後退りをし、リュドリカはまた迂闊に手を放してしまい申し訳無さで押し黙る 「タリス、戻っていたんだね。兄ちゃんはちょっと用事があるから、今日はミラおばさんのところに泊まってくれないか?」 「はぁ!?なんでだよ!?」 「…………兄ちゃんの言う事聞けるね?」 「ウッ……わ、分かったよ……」 明らかに声のトーンが下がり、タリスの顔色が悪くなる 俺の後ろで俺を拘束する人物は、一体どんな顔をしていらっしゃるのか、想像もつかない タリスは足早と手荷物を抱えると、そそくさと家を後にした

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