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第13話 俺の貞操が危ない

「わ、分かった……ラシエルが嫌じゃ無ければ……」 「俺が嫌なんて思うわけないでしょ、分かってるくせに」 「い、いや、分かんな……んむッ、んっ」 首の後ろに手を回されグイッと強く引かれる 口を開けて下さいと吐息混じりに言われると、成す術もなく言う事を聞いてしまう 今日と昨日で既に三回も致すこの行為だが、一向に慣れる気配がしない ジュ、ジュル、と溢れる唾液を一滴残らず舐め取られ、恥ずかしさでラシエルの肩を強く押す 「は、ッも、いい、だろっ!…ふッ」 「……はぁ、もう少しだけ……」 「ンンッ、ちょ、ンぁ、ハッ…」 ダメだ……このキス、頭ボーッとする…… なんか、下半身が……ムズムズしてきて、このままじゃ、まずい…… 「いいッ加減に……しろってばあ!しつこいぞおまえ!」 流石にこれ以上は俺も息子も耐えられない こんなにイケメンでしかもずっと憧れていた相手なら、このままなし崩しに……なんて頭に過ってしまう そんなの絶対ダメだ!現実では童貞のまま死んでしまったが、この世界ではせめて脱童貞したい!あわよくば勇者の幼馴染のメルサと……!それか今後出てくるであろう第二ヒロインのサラでも全然良いから!現実世界の女の子達の趣味嗜好は全然分んなかったけど、このゲームに出てくる女の子達の好みは知っている!だから…… 「何してんだよ!さっきからお前は!!」 余計な事を考えている内に、勇者はリュドリカの下半身に手を伸ばして、あっさりと完勃ちしている愚息に手を伸ばしていた 「ここ、辛そうだったので……それに、これも体の一部になりますよね?」 「なっ……」 体の一部ってか子種だよ! 俺はラシエルの身体を押しのけて、身を屈めて威嚇する 全く油断も隙もありゃしない それを見て勇者は困ったように微笑んだ 「すいません、まだ早かったですね。俺達のペースでゆっくりやっていきましょう」 「何をだよ!?」 まさかキス以上の事を本気でするつもりか!? いや……でも結婚してしまったらそういう事なのか……!? そんなことすっかり失念していた まだこの世界の結婚の形式などは分からないが、俺は昨日勇者ラシエルと結婚……本当にしてしまったのか 「……せ、せめて童貞は……女の子で卒業したい……」 ピリ、とした空気が流れる 一瞬の沈黙に、リュドリカはハッと見上げた 「……それ、本気で言ってます?俺がそんなこと許すと思いますか?」 「ごめん、今のは俺が悪かったデス…」 今のラシエルの顔は、完全に魔王と対峙した時の顔だった。 リュドリカは頭を下げて許しをこう このゲームのラシエル・アーマイトという人物は、俺の知らない一面がもしかしたらかなり隠されているのかもしれない 完全に失言をしてしまい、ラシエルはそのまま黙り込んでしまう 俺も気まずくなり、機嫌を取り戻そうと必死に弁解する 「お、俺!さっきお前になら抱かれても良いかな~なんて思っちゃって……!でも童貞非処女だなんてカッコ悪くって、つい口が滑っちゃっ……たんだ……」 絶賛今も滑り散らかしている 途中で俺何言ってんだと頭では分かっていても口が止まらなかった しかしその言葉は勇者には効果があったようで、機嫌を取り戻しまたいつもの笑顔に戻ってくれた 「格好悪いなんて思いません。そう思ってくれているのなら、さっきの事は許します」 「えっほんと!?」  「……はい、いつか男に産まれた事を後悔するぐらい、俺が貴方を女の子にしてあげますから」 「へっ……今、なんて……」 「いいえ。じゃあ行きましょうか?」 ポンと頭を撫でられる 絶対今勇者らしからぬ発言したよな!? 俺は本当に童貞のまま処女を散らす未来が約束されてしまったかもしれない 硬直して固まる俺を、勇者は気にすることなく手を引き、あれよあれよと村のみんなに別れの挨拶を交わし、メルサに親の仇かというほど睨まれ、王都カタルアローズの王の謁見をしに俺達は最初の村を出た . ナナギ村を出てすぐ王都に向かうには、ここからただ真っ直ぐと道なりに五百キロほど進めば良いのだが、ストーリーを網羅している俺は、実は既にカタルアローズ王国は魔王に占拠されおり、王族も国民も全て洗脳状態にいるっていうことは知っていた。 そんな中で何も知らないラシエルは王都に向かうと、呆気なく魔王にやられ、ゲームオーバーとなる。 所謂初見殺しという展開だ ということで、わざわざ無駄死にをしにいくような事はせず、最初から勇者の当面の目的である伝説の勇者の武具を探し求めた方が効率が良いと考えているんだが、さてこれをどう勇者ラシエルに説明すれば良いかと今は頭を揉んでいた。 「村の言い伝えなんですけど、聖剣が覚醒めると言う事は、カロリアの危機が迫っている証なんです。俺達はこれから王都に向かい、その事を王様に伝えなければいけません」 ラシエルは最低限の装備と心許ない食糧だけを携えて、王都に向かうよう言った リュドリカは考えいる暇などないと悟り、勇者の裾を引く 「あー……そのことなんだけどさ、王都に向かうのはまだ少し早いかもしれない……」 「どうしてですか?一刻も早く王様に伝え軍を率いらなければこの世界が危険なんです」 「そう、なんだけどさ……その」 だってもう王都は魔王に占拠されているし、王都から五百キロも離れているこの辺境地のナナギ村には、その事を伝える遣いも暫くはやっては来ない それに、本当の事を言ってしまえば正義感の強いラシエルは、今すぐ城に乗り込もうと無謀な策に出る筈だ ゲームの世界といえども、勇者のゲームオーバーになる姿なんて見たくはない そして何と言っても、魔王の側近である俺が憑依したリュドリカ・ユニソンは、そこで魔王の度を超えた攻撃に巻き込まれ呆気なく死亡する運命が待っているのだ。それが王都を避けたい一番の理由だった。 考えたくも無いが、この世界での死亡はリセットの許されない二度目の“死”を意味している可能性が高いんじゃないかと考えている なのでこのゲームをやり込んでいる俺に課された本当の使命は、勇者を一度もゲームオーバーにさせず、魔王に初見殺しをされることなく、無事にエンディングまで迎える事を目指していかないといけないんだと考え、決意を固くした。

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