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第31話 サウナってレベルじゃない

不規則に身体が揺れ、眠りの中で違和感が生じる 無重力を感じ、少し身体が暑い その不快感に頭が冴え始め、うっすらと瞳を開けた 「…………?」 誰かが、俺を担いでいる ここはどこだ?外?真っ暗で何も見えない 窮屈を感じ身体を捻じるが、全く身動きが取れない どうやら手足を縛られているようだ 「……な、なにが……」 眠気眼でボソリと呟くと、俺を担ぐ人間がビクリと狼狽えた 「パイロ様、勇者が目覚めたようです」 前を先導するパイロが驚いてこちらを振り向く 「なにっ!もうか?……ったく、あのもう一人のヤツが夜明け近くまで起きて何かしていたからな……やっと寝てくれたが、随分時間を取ってしまった。しょうがないがこのまま行くぞ」 「分かりました」 何だ……?何が起こっている? 徐々に意識もはっきりしだし、目を開けるとパイロとそのお付きの人間が俺を担いでどこかに向かって歩いていた 「え……え、なに?どうしたの?」 まだこの状況が上手く掴めていないリュドリカは、何だか嫌な予感が頭を過ぎりつつも、パイロに尋ねた パイロはこちらを見てニヤ、と不敵に笑う 「ハッ、運が無かったな勇者。エンドルフィンはお前を贄として要求してきた。寝ておけば楽に死ねたのに、悪いがこのまま死んでもらうぞ」 「…………。」 パイロの言葉の意味を理解するのに数秒とかかった。 そして段々と自分の身に起きている状況がかなりマズいものだということを察した もしかして、これ俺が勇者みたいになっちゃってる? じゃあ最初から酒に睡眠薬仕込まれていたのは俺の方?? マズいなこれは。かなりマズいぞ…… 「あの、何で俺が勇者って……」 「は?その伝説の勇者の衣を着ていたらカロリアでは赤子でも分かるぞ?お前何言ってんだ」 「あっ……あーーそっか、なるほど。確かに、うん」 ラシエル!!あんにゃろう!! 悪意が無いとは分かっているけどもやっぱり無理やりにでも服を交換するんだった!! 今更嘆いても仕方ない。 そもそも俺もこんな紛らわしい服を着ているせいで、こうなっちゃったわけだし、過ぎたことはしょうがないな 「ふぅ、着いたぞ。エンドルフィンの根城だ。ここはかなり熱いな……」 でもこれから起ころうとしていることは見過ごせない!! これは死ぬ!!火山弾なんて凡人の俺が避けれるワケないだろ!! 「な、なぁ……一度冷静になって話さないか?話せばきっと……」 「エンドルフィン様!お望み通り勇者を連れてきました!」 話聞けよこのガキ! 手足を暴れさせてもビクともしない。担いでるのは屈強な従者だ。こんな貧弱な身体じゃどうにもできなかった どうする!?どうしようか!?せめて魔法のロッドさえ取り出せれば何とかなるかもしれないけど!?手足縛られてて動けないし!! 今回ばかりは本当にもうダメかもしれない 顔を青ざめ絶望すると、溶岩の中から黒い影が浮き上がる 〈漸く連れてきたか。待ちわびたぞ〉 ザバンッと勢いよく音を立て、全身を炎で纏った体長約五十メートルもある不死の鳥、エンドルフィンが遂に姿を現す 「ッッ!!」 ーーデカい。余りにもそれは巨大で、ヤツの羽ばたき一つで生じる熱風は肌が溶けるように熱かった 昨日まであんなに自信有り有りと構えていたのがまるで嘘のように自身の闘士を削ぎ、やる気を失墜させた こんなの、マジでバケモンじゃねえか 「コイツが勇者ラシエルでございます」 パイロと従者が膝を付き、頭を垂れる 従者は担いでいたリュドリカを手放すと、ドシンと地面に無様に落ちた 「いっで!雑だなおい!?」 「なので約束通り、父と母を解放してくれませんか」 〈ふむ……。それは無理だな〉 エンドルフィンは顔を横に向け、ギョロリとした鳥目をリュドリカに向けて、ジロジロと見回す パイロはその言葉に驚き、声を荒げた 「なっ……何故です!?」 〈コイツは勇者でもなんでもない。一滴足りともその高潔で忌々しい血は流れておらん。ニセモノじゃ〉 「はっ……そんな、はずは……」 パイロは俺を見るなり顔を青ざめる 確かにこの衣はあの伝説の……と言い掛けて口籠った 俺はチャンスだと思い、パイロを説得する 「そういう事だ!パイロ!俺は勇者なんかじゃない!だから解放してくれ!」 〈しかし確かに勇者のモノと思われる不愉快な匂いがビッチリと其奴にこびりついている。なので其奴は妾が預からせて貰うぞ〉 なんだって!? マズい!!このままじゃ本当にラシエルの足を引っ張る事になっちまう!! 「…………それは……分かりました。しかし、せめて両親の姿を確認させて頂けませんか……?もう一週間も経ってます。食事もろくに摂れていないはず……」 パイロは懐から昨晩宴で出された料理を取り出して、両手でそれを掲げる 今思えば俺も昨日全然飯食べれなかったんですけど……!! そう喉まで出かかったが、流石にそれは控えた 何だか自分がこのデカ鳥のエサになりそうだったから 〈フン、人間というのは実に脆い生き物じゃのぉ。つい先日二人ともくたばってしまったわ〉 「ッッ!!?そ、そんな……!!」 「パイロ……」 この話は本当である。 両親は生きていると騙されていたパイロは、実は勇者をここに連れてきた時にその真実を明かされた 絶望したパイロはその怒りと憎しみで神鳥にも勝る神力を覚醒させ、勇者と共にエンドルフィンに挑むのだが…… 一番重要な勇者が不在!! そして今頃きっとラシエルはまた石化してしまっている!! この絶望的な状況を、どう切り抜けていけば良いのか、俺はとにかく無い頭をフル回転させるしかなかった

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