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第32話 必勝コマンド

やはりどうにかするには懐に入った魔法のロッドを使うしか他に手はない 項垂れるパイロにリュドリカは必死に声を掛けた 「おいっ!パイロ!この縛ってるロープ外せ!分かっただろ!?コイツは今魔王のせいで頭がおかしくなってるんだ!勇者を連れてきても、きっとお前も殺されていたんだ!だからーー」 「うるさい!!黙れこのニセモノが!!」 「なっ……!」 パイロはボロボロと涙を流し、キツくリュドリカを睨みつける そして嗚咽しながらフラフラと立ち上がると、リュドリカの元に寄り、首根っこを掴み叫んだ 「そもそも……っオマエ達がもっと……もっと早くに来ていれば……!俺の両親は死なずに済んだのに……!!」 「そ、それは……」 パイロの握り拳がブルブルと震え力を増す それを振り解く事も出来ない 「勇者なのにっ……なんで助けてくれないんだよっ!!なんで……!!」 「…ッ」 掛ける言葉も出なかった どれだけ虚勢を張っていても、彼はまだまだ十歳の幼い少年なのだ ゲームの一キャラクターだから、と一括りにしては言い難いその憎しみに満ちた目は、リュドリカの心の奥深くにズシリと刺さった パイロはリュドリカの襟首を掴んでいた手を離し、怒りの矛先を背後で嘲る不死鳥に向ける 「殺してやる!!お前だけは絶対に許さない!!」 背中に携えていた弓矢を手に取り、ギリギリと弦を引く エンドルフィンはその不気味な目を細めて、大きく燃える翼を広げた 〈先に明かしたのは性急すぎたか。まあよい、こうなったら妾自ら里に赴き勇者を殺してしまおう。いかんせん妾は鳥目だからな。里ごと焼き払う事になろうが〉 あの炎を纏った羽を里で一振りでも羽ばたかせれば、それだけでもひとたまりもない被害が出る筈だ ここにいるみんなも焼け死んでゲームオーバーになってしまう どうしたら……一体どうしたらいい!? ダメだ……身体が焼けるように熱い……このままだと…… ラシエル…… 「うぁあああああっ!!!」 パイロが泣き叫び、そして矢を放つその瞬間、ガクガクと震える身体に優しい温もりを帯びる ーーそんなに力を込めるものじゃないーー 肩に伸ばされた温かな手が、パイロの怨嗟に満ちた緊張の糸を断ち切る 「ッッ!?父さん!?」 パイロの一言で皆が一斉に振り返ると、そこには勇者ラシエルがしゃがんで、パイロの肩に手を差し伸べていた 「……間に合った。落ち着いて、キミは十分頑張った」 「ーーお前は……!」 「ラシエル!?どうしてここに!?何で動けるように……」 俺もパイロも驚きの表情を浮かべ、ラシエルを見る。 ラシエルは立ち上がり、不死の鳥エンドルフィンを睨みつけた 「今は説明している暇がありません。あの鳥をどうにかするのが先決です」 〈ほう、勇者自らお出ましか。フフフ……実に愉快だ。貴様ら全員消し炭にしてくれよう〉 エンドルフィンが不気味に笑うと、火口からグツグツとマグマが顔を見せ、辺り一帯に噴煙が立ち昇る 「お付きの人、彼…リュドリカさんを抱えて里に戻ってくれませんか?キミはまだ俺と一緒に戦って欲しい、出来るね?」 従者はコクリと頷いて、拘束されたままのリュドリカを抱えて足早にその場を去ろうとする 「あっ、えっ……!?」 泣き崩れていたパイロはグシグシと涙を拭い、ラシエルの横に立ち並んだ 「分かった…!絶対にアイツを倒してやる……!」 「うん、その意気だ」 ラシエルは目を細め余裕の笑みを浮かべたあと、次にエンドルフィンに鋭い目付きで向き合う 「えっ…ちょ…っ」 えっ、ど、どうしよう!?俺何にも役に立ててない! ていうかあんなバカデカイ鳥、目の前にして全く怯まないラシエルかっこよすぎないか!? 従者の肩から体を乗り出し、俺は考え無しに叫んだ 「ラシエル!!」 ラシエルはこちらを振り向くことはないが、きっと俺の声は届いている 「もし!火山弾が飛んできたら!右右下上左後前前だからな!」 その言葉にはパイロが怪訝な顔で振り向き、こんな時に何言ってんだと呆れた顔をする こんな時だからこそ俺は俺が出来る唯一の|ヒント《攻略法》を叫ぶしか出来なかった 「いいか!?右右下上左後前まッ」 「うるさい!!」 ゴンッと鈍い音が頭上で鳴る 痛い!!NPCに殴られた!! セリフも同じことしか言わないような屈強な従者に、大人しくしていろと続け様にリュドリカに命令する 「うう……」 リュドリカは大人しくエンドルフィンと対峙するラシエルの背中を見つめたが、彼は大きく手を挙げこちらに分かるよう返事をした 「必ず、戻りますので。待っていて下さい」 そのまま上げた手を背中に運び、光輝く聖剣を片手に勇者ラシエルといつの間にか神力に目覚めていたパイロは、燃え盛る巨大鳥に立ち向かっていった 「ラシエル……」 リュドリカはただその背中を、生きて無事に帰ってきてくれと、願うことしか出来なかった

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