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第37話 宿屋のひととき1
「泊まり二名ね~、じゃあここに名前を……」
「これ、お願いします」
受付の紙の上にポン、と白金に輝くプラチナトラベラーのカードを差し出す
ふと店主がラシエル達を見るなり目の色を変え挙動不審となった
「あっアンタらは!?ま、まさか勇者様では!?あっ部屋!一番良いところ!用意してますんで!今確認取りますね!」
店主は慌てたように焦りそそくさと裏の従業員室に入って行ってしまう
リュドリカはその動揺っぷりに驚いて反応が遅れてしまった
「はっ!?いや、いいって!おいっ普通の部屋で!!」
すぐに店主が戻り、キラキラと光るプラチナのカギを手渡される
ラシエルが良いじゃないですか、折角なんだし。とかなんとか横で言っているが、俺にとっては全然良くない!
「ごゆっくりどぞ~」
ラシエルに手を引かれ店主が見送る
すぐに店主は通信器具のようなものでどこかに連絡を取っている様子が傍目に見えた
ラシエルの問題行動が旅人の宿屋全体に周知されちゃってる。もう宿すらまともに使えないな、今後は……。
あれよあれよと再び最上級グレードの部屋に連れられて、リュドリカ達は漸く一息ついた
「あとここからどれぐらいあるんでしょうか」
「そうだなぁ……ここはまだ国境の境目辺りをうろついているから……目的の場所にはあと何日かは歩きが続きそうだな」
「そんなに……移動が大変ですね」
「あぁ、それなんだけど……」
リュドリカはニヤリとしたり顔をする
そう、次の目的地ではパワーグローブがメインなのだが、これから長い旅をしていく時に重要なスキルの一つに、ペガサス飛行が手に入るのだ
「次の国に行けば、今より移動がもっと楽になるから」
「どういうことですか?」
「迅雷の国カンナルには神獣ペガサスがいて、俺達の旅をきっと手助けしてくれる」
まあ、一度の移動に20ルータを取るなんてタクシーみたいな商売しているけどな
「え、それは凄いですね」
「だから今回で歩きでの移動が最後になるかもな!てことはこの宿にも泊まる事もなくなる!」
ていうかもう目付けられてて気まずいし、毎回この部屋に案内されるのも困る
回数制限は五回なのだ。いざという時に残しておかなければならない
しかしラシエルは考え込むように黙り込んだ
「……。」
「ラシエル?」
「……聞いた話なんで受け売りでしかないんですか……魔法を使える人はワープ移動も出来る、なんてことを聞きました」
「へっ……」
そ、そうなの?やっぱリュドリカもワープ魔法を使えるのか!?
じゃなきゃこんな貧弱な身体で五百キロもかけてナナギ村に移動するなんて無理な話だしな……。
ラシエルは俺をジッと見てくる
お前は魔法でワープ使えないのか、なんてことをきっと思っているのだろう
「俺は……」
「あと魔術師は一人につき一人、自分と相手に印を使って契約し、その相手の元にワープ出来る。というのも知ってます」
「……へぇ?」
そんな高等技術のような魔法、俺には絶対出来っこないけど……
そんなこと言うってことは、ラシエルは俺と契約したがっているってことなんだろうか。
「ま、まあ……俺達常に一緒にいるし?そんな契約無くても大丈夫かな……」
「………。それもそうですね。何かあったら俺はすぐリュドリカさんの元に駆けつけます」
「あ、はは……頼もしいな」
「……はい。なので、もし、何か身に危険が迫れば俺の事を強く呼んで下さい。光の速さで飛んでいきますので」
「えへへ、ありがと」
そんな雑談を終え、ラシエルがじゃあ常に一緒にいるので一緒に湯浴みをしましょうなんて言うから適当に交わした
「うーん、移動魔法か……そんなの使えたら便利だけどな。他の宿の客達に聞いてみようかな?」
リュドリカは先に風呂に入ったラシエルを一人置いて、部屋を出た。
宿の中には、カロリア各国から人が集まる休憩所もあるのでそこに足を運ぶ
「魔法の使い方とか、知ってるヤツいないかなぁ」
休憩所に着き、キョロキョロと周りを見渡す
黒髪にローブを身に纏い丸い眼鏡を掛けているいかにもって感じで魔法を使いそうなヤツを発見したので、ソイツに話を聞くことにした
「あの、ちょっとすいません」
「どうしました?」
「魔法についてお尋ねしたいんですが……」
「魔法ですか?どんな魔法ですか?」
「移動……というか、ワープ出来る魔法ってどうやるんですかね?」
「ワープ……」
その男は数秒と考え込んだ後、うーんと頭を捻らせる
「ワープを使うには、魔術師が誰か一人と契約して、契約相手の場所に飛ぶか、自分の場所に呼び出すか、或いは相手と居場所を交換するか、という転移と五体交換 がありますけど……」
「ほう」
移動するだけじゃないのか。結構便利な魔法なんだな
「ただ一定の場所にワープすることは、難しいと思います。強い魔力を施されたワープポータルで移動するとかしか……」
「あ、そうなの?」
なんだ、やっぱりワープ魔法自体はないんだな。ここはやっぱり神獣ペガサス を仲間にするしか無いか
「じゃあさ、その契約してワープする方法ってどうやんの?」
「なんかタメ口になってる……お互いの家紋をお互いの身体の何処かに印を刻んで、そこにそれぞれ生気を少し取り込む。そしたら出来る筈ですよ」
「なるほど……」
できる気がしねえ。ラシエルはともかくリュドリカの家紋なんて知らないしなぁ
「分かった!ありがとな!」
「はい、良い旅を」
ローブを着た眼鏡の青年に手を振ってお礼を言う
いいヤツだったな、額に傷は無かったけど。あ、そうだ、もう一つの目的を忘れるところだった
「露天商……まだやってるかな」
リュドリカは閉店間際の露天商のおじさんに急いで声を掛け、とある商品を手に入れた
「フフ、やっと手に入れたぞ……これさえあれば……」
少々値は張ったが、旅で貴重アイテムを手に入れていた為へそくりは十分にあった
リュドリカはそのアイテムを大事に懐に仕舞い、自室へ戻った
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