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第41話 雑魚敵といえば
ラシエルは、気を落とすリュドリカの様子を見てもう一度口を開く
「あ、と……そうだ宝箱も!よく見つけてるじゃないですか?俺には出来ない事です」
「……でも、その度に魔物に襲われてラシエルを困らせてる……」
「自覚してたのか……。そうですね、急に飛び出して行くのでリュドリカさんがケガをしないかいつもハラハラしてはいますが……」
「……ごめん。魔法も、ろくに使ってなくて」
バルダタに着いた頃は大見栄を切ってラシエルを魔法で火山弾から守るだなんて口走ったけど、アレは防御結界の存在を知っていたからこその軽口に過ぎない
「え、魔法?」
「うん、回復魔法とか……」
今後仲間になるだろう第二ヒロインは治癒魔法を使いラシエルの戦闘のサポートをする
同じ生業を持つリュドリカには、何も出来ない事がかなりネックに感じ始めていた
「回復魔法……」
ラシエルは少し考え込む素振りを見せると、すぐにニコニコと笑いかけながら気を落とすリュドリカの頭を優しく撫でる
「そうですね。リュドリカさんの魔法……ふふ。俺にとってアレは少し効果が強すぎます」
「え?俺、魔法なんか……」
「あるじゃないですか?あの凄い魔法……服を消して素っ裸になる……」
「ッッ!!?~~ッ違うっ!!アレは別にやりたくてやった訳じゃ!!」
初めて魔法を使った時。念じ方の悪さでとんでもない醜態を晒したあの日以来、想像力の乏しさを実感したリュドリカは、魔法に対して苦手意識を持ってしまっていた
戦闘なんかの臨機応変に動かなければならない時に、咄嗟に使って下手を打ちこれ以上ラシエルの迷惑になりたくなかったからだ
「あの時は服が濡れていたので……脱いでとは言いましたがまさか魔法で全裸になるとは……」
「ち、違うってば!!」
「またして下さい。あ、でも二人きりでどこかゆっくり出来る場所……今夜は宿に泊まりましょうか」
「何言ってんだよ!?」
「ああでも、魔法なんか無くても俺が脱がせば良いか……それかリュドリカさんが自分で脱いでくれたら凄く元気になれそうです」
「だから何言ってんだよ!!」
「あはは。いつものリュドリカさんに戻ったみたいで良かったです」
「えっ!?」
ラシエルは目を細め、顔を赤く染めて声を荒げるリュドリカの頬に手を宛てた
「最近、あまり元気が無かったようなので」
「あ……」
ネガティブな発言を繰り返すリュドリカを元気付けようとラシエルは冗談を言っていたみたいだった
そうでなくても、魔王からの通信以来気を張り詰めていたリュドリカは、旅の道中でも口数が減っていた
「それじゃあ俺は狩りに行ってきます。リュドリカさんはここで少し休んでて下さい」
「う、うん……ありがとな。変な気を遣わせちゃって」
「何の事ですか?」
「おかしな冗談言うから……」
「冗談?そんな事言った覚えは無いですけど……あれは本音ですよ」
「……。」
そこは冗談で良かったのに。
余計な事を突っ込んでしまったと後悔した
ラシエルは立ち上がり、見上げる俺をジ、と見つめた
「それに、俺は貴方に助けられた事もあります」
「え?」
「あ、……いいえ」
ラシエルはふ、と笑うと行ってきますと少し先の林になっている場所へ駆けていく
リュドリカはラシエルの言葉を上手く理解する事は出来なかった
「また変な事言ってんのか……」
最近は道中で雨の続く日が多かった為、久々の晴れ渡る青空にふうと、気の抜けたため息が漏れる
「でもやっぱ魔法は少しぐらい使えないとダメだよな……」
この前の魔王との通信以来、試しに使った魔法はたまたま上手くいった
しかし戦闘などで使う魔法となると、呪文や勝手が全く解らない
そもそも、ロッドがリュドリカの力量には大きさ重さ全てがあまりにも分不相応過ぎて、振る時の動作にもたついてしまう
下手すれば暴発して自身に直撃する可能性だって考えられる
「でも、それでも雑魚敵ぐらいは……そうだな、うん……例えばスライムとか……」
属性付きが厄介だけど、基本的に攻撃力もほぼ無ければ耐久値も少ない雑魚中の雑魚
……そうそう、目の前にいるこんな……
「……。」
ドロリとした液状の塊
ギョロリと二つの目がこちらをジッと見つめる
「~~ッッ!!?」
青空に気を取られていて、目の前にいる敵に気付く事が出来なかった
草むらに擬態するタイプのスライムで、緑色の身体に根っこと葉が生えている
「ハ……ハーブスライム!?」
驚いて身を引こうと後退るが、背中にある木が邪魔をして反応が遅れた
「ッッ!」
ハーブスライムはまだこちらを見つめるだけで、微動だにしない
リュドリカはすぐに懐にあるロッドを取り出し何も考えずに元の大きさに戻した
「うぁっ!」
しかし本来の重さを取り戻したロッドを上手く支えきれずバランスを崩し、ハーブスライムの前にロッドを倒してしまう
「ーーッ!」
その衝撃にスライムは驚いたようで、反感を買ってしまいこちらに勢いよく飛びついてくる
「ひえっ!?きもっち、わる!」
ヌルリとした液状の塊がリュドリカの全身を覆うようにまとわりついてくる
しかしこのハーブスライムの厄介な所は、まとわりついてきて体力を削ると同時に、回復までさせてくるのだ。
そうして身体に寄生した時間の長さに応じて自身の身体を肥大させ、動きを封じて自らスライムのなる木に成り果てる
非常に厄介な敵なのだが、戦闘力は基本ゼロ
この手の敵に捕まるのはせいぜい野生の小動物程度である
「……のハズなのにっ!」
冒険者における必要最低限の戦闘力すら持たないリュドリカにとって、このへばりつくスライムを跳ね除ける力すら持ち合わせていなかった
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