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第43話 大樹の森の試練
「ナルマ族だ!」
「わ、ほんとだ……初めて見ました」
ナルマ族の男はこちらを見るなり必死な様子で駆け寄ってきた
「兄ちゃんたち!旅人か!?ちょっとオイラ達を助けてくれんか!?」
リュドリカに向かって走り寄ってくるナルマ族の小人に対して、ラシエルは瞬時に前に立ち塞がる
「ム……下がってくださいリュドリカさん。そこのお前、それ以上近付くと攻撃する」
ラシエルは背中に手を伸ばしスゥと聖剣を浮かび上がらせ、まるで魔物を見るようにナルマ族の男を冷たい目で見下ろす
それを見てリュドリカは焦ったように引き留めた
「お、おい?ラシエル?落ち着けよ」
「なっ、なんだっ!?オイラぁ敵じゃねえよっ!ていうか……その剣……アンタが勇者か!?」
リュドリカとラシエルを交互に見るなり、あぁ、まあ確かに……とボソリと言う小人の言葉に少し引っかかるが、未だに俺が勇者の服を纏っている為、それもやむを得ないかと自分に言い聞かせた
「に、兄ちゃん!見て分かるだろ?今カンナルの上空がとんでもないことになっちまってるんだ!お願いだ、助けてくれ!」
小人はラシエルの前で両手を組み縋るように膝をつく
ラシエルは未だ警戒心を見せつつも、リュドリカに大丈夫だからと諭され手に持っていた聖剣を漸く仕舞った
「……何をすればいいんですか」
「迅雷の国 の神獣ライダンが魔王によって翼をもがれ、変な角まで生えさせられてトチ狂っちまったんだ!その怒りを鎮めて欲しい……!」
この通りだ……!とそのまま土下座をする小人に、ラシエルはふと上空を見上げる
そして数分と考え込んだあと、キラキラと目を輝かせて見つめてくるリュドリカを一瞥し、はぁと小さく溜息を吐いてやっと口を開いた
「分かりました……そのライダンは今何処にいるんですか?」
「まあ待て、ヤツは雷を操るペガサスだ。そのまま行けば丸焦げにされちまう。だからその前にお前達に頼みたいことがあるんだが……」
「………。」
「……ラシエル?」
黙り込むラシエルの顔を覗き込むと、明らかに面倒くさそうな雰囲気を滲み出している。勇者がそんな顔しちゃダメだろ
「ラシエル、力を貸してやろう?」
ラシエルの袖を引き、俺も手伝うからと鼓舞する
困ったように眉を下げると、俺の顔を見て観念したのか、小さく返事をした
「……はい」
「お、おぉ……助かる」
ナルマ族の小人はラシエルにかなり不安そうな顔を向けるが、話を続ける
「元々この森は雷が活発で、通常ならこの大樹が避雷針の代わりになってくれるんだが、余りにも威力が強すぎてな…この森の所々に絶縁体である植物の綿があるんだ。それを探し出して欲しい」
「はぁ……」
「その時にライダンに見つからないように気を付けて行くんだ。ヤツは敵を見るなり襲いかかり稲妻を落としてくるからな」
「なるほど……」
真剣な顔をするラシエルを見て、俺は少し顔がニヤつく
ここのステージも勿論全て頭の中で網羅している。ライダンの行動パターンや、どこに綿が群生しているのか全て把握済みだった
俺はやっとラシエルの役に立てると喜んでいると、ラシエルはこちらを見て手を引いた
「リュドリカさん、この国はもう手遅れみたいです。他を当たりましょう」
「な、なぜだ!?」
「ラシエル!?めんどくさがんなよ!?」
「でも……」
「ほら!俺宝箱とか見つけるの得意だし!綿もすぐ見つけ出してやるから!」
リュドリカが必死にラシエルを説得させるが、当の本人は更に嫌そうに顔を顰めた
「何を言ってるんですか。こんな雷雨の中、リュドリカさんを連れて行けるわけないです。貴方はここで待ってて貰います」
「へっ!?なんで!俺は平気だし……」
ふと眼の前に広がるカンナルの上空を見上げる
激しい豪雨に伴う鳴り止まない稲光、吹き荒ぶ風に森の中の木々や、雑草花々は辺り一帯に飛び交い少しでも掠ればそれなりのダメージになりそうだった
「……こんなの、どうってこと……」
ゴロゴロ、ビシャンと耳を突き刺すような轟音に、身体が揺れるほどの地響き
ゲームの中では雨に打たれようとも全く気にもならなかったのに、実際ここまでの道筋での悪天候の分の悪さを目の当たりにしてきて、とてもじゃないが身が竦んでしまう
「俺が嫌なんです。俺には耐久値のある鎧もありますし、すぐに見つけて来ます。なのでここで待ってて下さい」
「いやっ、でも……!」
ラシエルはリュドリカの頭を撫でると、ニコリと微笑み平気ですからと言って一目散に大樹の森の奥へと駆けていってしまう
「あっ……ラシエル!」
追いかけようにも、その余りの俊足にリュドリカはすぐに勇者を見失った
「………。」
もうとっくに姿が見えなくなったラシエルの影を見つめ、隣にまだ一緒になって佇むナルマ族にリュドリカは振り向き肩を掴んだ
「なぁ!?お前のその帽子!雨しのぎの魔力が掛かってるだろ!?貸してくれよ!」
「なっ、なんでそれを……。いや、これ貸したらオイラが森に戻れなく……」
「ありがとな!」
「あっ!?おいアンタ!!」
リュドリカは小人の帽子を奪い取り、それを被るとラシエルの後を追いかけるように森の中へと駆けていった
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