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第45話 清純無垢

「アンタは、さっきの……」 「急に空が晴れたと思ったらここの上空だけやけに雲が集まってたから来てみたら…………やっぱりかぁ!」 ナルマ族の小人は、フムフムとライダンを上から下まで見、その後にリュドリカにも目を向けた 「ペガサスっていうより……もうユニコーンだなぁ!」 ガッハッハと小人は笑う それを見たライダンは後ろ脚を強く蹴り上げ土埃を小人に振りまいた 〈この無礼者め……神聖な迅雷の国(カンナル)に居着く不心得者が〉 「あっでで!やっぱり性格まで乱暴なヤツに変わっちまってる…」 小人はそそくさとラシエルの後ろに逃げ込み、怯えたようにこちらを見てくる 「リュドリカさん、貴方も今すぐそこから離れて下さい。ソイツは危険だ」 「危険って……でも雷も止んだし、俺には優しくしてくれるけどなぁ……」 神獣ライダンはリュドリカの脇に額を押し付け、甘えたような声を出す リュドリカは優しく微笑み額を撫でた 「ほらぁ、怖くないよ?」 「…………。」 ラシエルは口には出さないが、明らかに不機嫌な表情を露骨に浮かべる ライダンはリュドリカに見えないよう勝ち誇った顔をした 「兄ちゃんそりゃあだってなぁ……」 ナルマ族の小人が何だか言い辛そうに、ラシエルの背後から顔を出す 「ソイツは今ユニコーンの性格も兼ねているんだろうから……その、兄ちゃんを純潔の乙女と勘違いしてるんだろ」 笑いを堪えるように小人は肩を震わせて言う ユニコーンは、穢れ無き生娘にしか心を許さない。そんな言い伝えがあった しかしリュドリカは、そんな伝承など露知らず首を傾げる 「え、それってどういう……」 「そのまんまの意味だよ。アンタがまあ前も後ろも未使用品ってことだな」 遂に堪えられなくなったのか、咳き込みながら小人は下卑た笑いを森中に響かせる リュドリカは数秒と固まった後に、徐々に顔を赤く染めた 「なっ…!う、うっさいなぁ!?無事に雷も止んだし文句はねーだろ!?笑うなよバカ!!」 ワッと声を荒げて、自身がまだ未経験者だという恥ずかしいことこの上ない事実を、隣にベッタリと引っ付く神獣ライダンにこれでもかというほど証明させられる 「ハァ、……そうですね。この国はもう安全でしょうし、行きましょうリュドリカさん、ここにはもう用は無いですよね?」 口調は落ち着いてきてはいるが、未だに警戒の色を隠せていないラシエルは、リュドリカに一歩近付く するとライダンのたてがみが逆立ち、バチリと放電した 「…ッ!」 〈近付くな、不埒者めが。清純で無垢なリュドリカには指一本触れさせぬ。穢らわしい〉 「やめて!?その言い方、なんかめちゃくちゃ恥ずかしいから!」 カロリアの危機を救う伝説の勇者が物凄く卑劣で浅ましい人間みたいな扱いを受けちゃってる リュドリカは困ったように苦笑いを浮かべラシエルをチラリと見ると、ラシエルは真顔でボソボソと小さく口を動かした 「コイツ……邪魔だ……今すぐここでリュドリカさんを犯せばどっか行くのか……?」 「何言ってんの!?」 伝説の勇者が物凄く卑劣で浅ましい発言しちゃってる!!今更だけどライダンの言ってた狙ってるってそっちの意味なの!?純ケツを狙ってるの!? そもそもまだ無事だったんだ!俺のお尻!良かった! ジリジリとお互いを睨み合い一歩も引かない両者に、リュドリカはほとほと困り果てる 〈我はリュドリカから離れる事はない。何時如何なる時も側にいて此奴をどんな敵からも守ってみせる。まずは手始めに貴様から葬り去る〉 「望むところだ。返り討ちにして、お前の目の前で彼を抱いてやる」 「どっちが敵か分かんなくなってきたよぉ……」 バチバチと睨み合う二人を止める事も出来ずに、リュドリカはただこの異様な光景を傍観するしか出来ない 「兄ちゃんも散々だなぁ。まあでも無事に森は救われたし、順番が前後したがお前達に渡したいモノがあんだよ」 あ、パワーグローブ…! ストーリーが拗れてしまってしっかり忘れていた! ついて来いと言ってナルマ族の小人はさっさと歩き出してしまう 「あっ、ちょっと待って……おい!お前ら!ケンカしたらダメだからな!」 そう叫んでも、二人には響かない 雲行きは益々怪しく翳り、ラシエルの握る聖剣はギラリと光る 「最初からあの小人に言われた時点で嫌な予感がしていたんだ。はぁ……やはり止めるべきだった」 〈フン、誰も貴様を歓迎などしておらん。早急に消え去ると良い〉 「あぁもう聞けよ!ケンカしたらっ二人とも嫌いになるから!」 半ばやけになって言い放った言葉に、睨み合う二人はハッと硬直する すると突然人が変わったように、こちらを見るなり焦りの表情を浮かべた 〈それは勘弁だ。分かった、リュドリカに免じてこの場は一旦引いてやろう〉 「嫌です……!リュドリカさん、嫌いにならないで……」 「お、おう……そうやって仲良くしとけよ?」 コイツら単純で良かったぁ 急に大人しくなり後ろを並んでとぼとぼ歩く二人に、リュドリカは安堵し、それと同時に厄介な仲間が増えたと今後の旅に不安を覚えた

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