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第46話 カモフラージュ
「着いたぞ、オイラ達の住処だ。ちょっとそこで待っててくれ」
小人は言うなり、ナルマ族専用の小さな洞窟へ入っていってしまう
リュドリカ達はそれを見届け、数分と待つ
「………。」
その間もとても気まずい空気が流れる。暇潰しに目を動かそうとも、森の中ではどこもかしこも同じ景色に見え、時間が経つのも体感よりもずっとずっと長く、それに耐えられなくて口を開くのは、やはりリュドリカだった
「そ、そういえば……ライダン、その、ペガサス飛行って使えるの?」
本来ならば綿を纏った大木を勇者が振りかざし雷を受け止め、その攻防に疲れ果てた神獣ライダンに聖剣の目醒の一太刀を食らわせ正気に戻ると、本来の姿であるペガサスへと姿を戻す……というのが本来のストーリーだったが、今ではもうユニコーンの姿に定着してしまっている。洗脳うんぬんはどうなっているんだろう
〈安心しろ。翼は仕舞っているだけだ。使いたい時にはちゃんと飛べる〉
「へ、へぇ?」
どういうメカニズム?
まあ、飛べるなら問題はないんだけど……
「そしたら次の目的地は……海中帝国サファリアかなぁ」
そこには、邪気払いの盾が手に入る
魔王は最終決戦の際に、全部で第四形態まで進化を遂げる
その第一形態の戦闘時において、魔王の会心の一撃である宿怨の破滅 を跳ね返す唯一の方法が邪気払いの盾なのだ
あの攻撃をまともに食らうと、聖剣が無惨にも真っ二つに折れてしまう
それを防ぐ為にもこの盾が絶対不可欠になってくる
「リュドリカさん……もしかしてコイツに乗って移動をするんですか……?俺は反対です……」
ラシエルが眉を下げて子犬のように俺の袖を引く
「えぇ?でもたった20ルータで空を飛べるんだよ?歩きより絶対楽だって!」
「それでも……」
心底嫌そうな顔をするラシエルは珍しく子供っぽくて、駄々をこねる様子すらもなんか可愛いなぁ。だなんて思ってしまう俺もたいがいだと思う
「乗るのは俺の上だけにして下さい……」
「……。」
前言撤回
やっぱ可愛くない。こいつ
そしてそのやり取りを聞いていたライダンはピクリと耳を立て、ヒヒンと甘えた声を出しリュドリカに擦り寄ってくる
〈リュドリカよ……我はそんなしみったれた事はせぬ。お前となら何処へでも乗せて征くぞ〉
「えっほんとっ!?ほらっ!タダで乗せてくれるって!」
「俺は絶対乗らないです。歩いて行きます」
〈此奴はこの身が滅びても乗せぬ。リュドリカのみだ〉
「えぇー……」
面倒臭すぎるぞこいつら。
この先が思いやられると頭を抱えた頃、ナルマ族の小人がお待たせといってひょい、と住処から顔を出す
それからたくさんの小人たちが洞窟から姿を現し、感謝の言葉を投げかけパワーグローブを差し出した
「これは我が一族の宝だ。是非魔王討伐の時に役立ててくれ」とラシエルが無事にパワーグローブを手に入れたのを見届けると、リュドリカはその言葉でふとある事を思い出す
「あっ!そうだった!おれ、ちょっとやることあるから!二人はそこで待ってて!」
「えっ何処に行くんですか!?一人では危険です!」
〈リュドリカ。我から離れるな、我もついて行く〉
二人は同時に言うと、リュドリカの側に駆け寄ろうとする
それをリュドリカは大声で牽制した
「絶対付いてくんな!分かったか?付いてくんなよ!!」
リュドリカの一声に、二人はグッと足を止め待てを食らった忠犬の如くその場に泣く泣く留まる
それを見届けた後に、リュドリカはナルマ族の小人の手を引いて二人から離れた
「えっ?オイラは付いていくのかっ?」
遠くで二人が恨めしそうに見ているのをナルマ族の小人は参ったなこりゃという顔で横目で見ながら、リュドリカは気にせず森を駆けた
森の奥にだいぶ進んだところで、キョロキョロと辺りを見渡す
ここなら良いかとしゃがみ込むとリュドリカは神獣ライダンに見つかったあと、一緒に探索をした時に大量に仕入れていた綿を取り出し、それを人型に整える
「何してんだ、兄ちゃん」
「んー、アリバイ工作?」
「?」
そしてある事を頭で念じると、その人型の綿は徐々に本物の人間へと造り変わる
「んんっ!?こりゃあ…!?」
そこに造られたのは、ラシエルの模型とも言える人形だった
姿形をそっくりに作られたそれは、パッと見では本物と大差ない
「よし、上出来」
「兄ちゃん、それは一体……?」
「ナルマ族のおじさん、一つ約束して欲しいんだ。もし、この国に誰か変な人が来たら、勇者は死んだと、言って欲しい」
リュドリカは縋るように小人に頼む
それを見て困惑した小人は、頭にハテナを浮かべた
「えっ?何でそんなこと……」
「お願いします。この世界 を救う為にも……何も聞かずに協力して欲しい……」
何か重大な秘密があると察したナルマ族の小人は、それ以上追求することなくコクリと頷いた
リュドリカはありがとうございますと頭を深く下げ、ラシエルとライダンの待つところまで戻ろうとする
「おい、兄ちゃん!」
するとナルマ族の小人が大声で引き止めた
「?…どうしたの?」
「そろそろ帽子返してくれよ!」
「………。」
バレたか。
結構便利アイテムだったんだけどな。渋々雨しのぎの三角帽子を返し、再び小人と別れを告げる
こんな一時しのぎの即席遺体でしか無い人形で、どれだけ魔王を欺き時間を稼げるかは分からないけど、俺は思い出したんだ。
次に向かう海中帝国サファリアに君臨する王様には、どんな願いも一つだけ叶えてくれる特別な魔法があるという事を。
もしかしたら……このパールのネックレス も、取り外してくれるかもしれない
そんな一縷の望みに賭け、俺達は迅雷の国カンナルを後にした
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