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第60話 貴方のもの
腹いっぱいに馳走をかき込んで、リュドリカ達は一息ついた
レインガルロは玉座の上で再び眠りに就いている。魔王に操られていた際に龍術を酷使していたせいか、まだかなり疲れていたようだった。
ここで過ごす時間もかなり経ち、地上に残されたライダンが、痺れを切らしてもう一度雷の雨を海に降らせてきそうなので、リュドリカは重い腰をあげる
「そろそろ戻らないと、ライダンが流石に怒る」
「ああ。そういえばそんなの居ましたね、忘れていました。ここは凄く楽しかったです、ね?」
「……。そう、だな!!」
リュドリカは怒気の混ざった声音で投げやりに返事をした。
最初はあんなにも乗り気じゃなく、ずっと警戒心丸出しだったのに、今では勇者ラシエルが一番満喫している始末だ
まあそれが普通の事なんだけど……でもなんか、癪に障る!!
俺が招いた敵の襲撃の事もあって、ラシエルに強く反論出来ないのも悔しい
「そうだ。地上に戻ったら、玩具の操縦を教えますね」
「……もう、それはいい。どうせ俺は上手く扱えないし、次の国に急ごう」
「そうですか?分かりました」
あんな狭い機内で、同じように密着されたら、変な事を思い出してそれどころじゃなくなる。
それにあの時のヴァリバンとの戦闘を見たら、とてもじゃないが俺に倒せる自信は微塵も湧かない
そして最大の理由は、今はなるべくラシエルと二人きりになるのだけは心底避けたかったからだ
「え~?オモチャってまさかシールドフィンのこと?オレの自信作なのに~」
背後からひょっこりとカシミアが顔を出す。また元の人型の姿に戻っており、陽気な口ぶりで話に割って入る。
ラシエルはそれだけで顔を顰めた
「衝突の際のショックの反動が強すぎます。それに、機内が狭い」
「邪気払いの盾は強力な分、反動も大きいんだよ。あ、オレの個人的に持ってるヤツは、戦闘用じゃなくて観光案内用もあるんだよね」
そこまで言うと、カシミアはリュドリカの方を振り向き、にこやかに続ける
「まだこの国全部回れてないでしょ。リュドリカ、オレと一緒に行こうよ。あ、もちろん二人きりでね」
「……。は?」
「え、俺?」
カシミアはあからさまにラシエルの感情を逆撫ですると分かっての発言を、怖いもの知らずに堂々と言い放つ
案の定ラシエルの表情は曇り、静かにカシミアを見据える
普段ならば場の空気を和ませ仲裁に入る所だが、リュドリカは先程の件もあってその提案を呑んだ
「……うん。そうだな、全部見れてないかも。案内お願い出来るか?」
思いもよらない受け答えだったのか、ラシエルは驚きリュドリカの手を引き声を上げる
「なっ……!リュドリカさん!?こんな得体の知れないヤツと二人きりだなんて……危険です!何をされるか分かったものでは……!」
「酷いな~オレのこと何だと思ってるの?」
リュドリカは掴まれた手を放せと振り解き、フンと鼻を鳴らした
「コイツはそんな事しない。それに得体が知れてても、何されるか分かったもんじゃないしな」
「っ……」
ラシエルは顔を青くし焦りの表情を浮かべてこちらを見つめてくるが、少しは反省しろ。と念を込めて無視を決め込む
カシミアはそれを面白そうに更に揚げ足を取る
「あっはは、どうしたの?随分怒らせてるみたいだけど、キミたち何かあった?」
核心をつきながらもニヤニヤと勇者の顔色を伺うが、ラシエルはその面影を失うぐらいの形相で、カシミアに殺気立った視線を送り付けた。
リュドリカはその表情に一瞬身を竦ませるが、負けじと声を絞り出す
「っ、ラシエルそんな目で見たって、」
「……リュドリカさんがどうしても行くと言うのならば、俺はコイツを殺めてしまうかもしれません……」
「なっ!?」
「うわ。こっわあ……お兄さんそれでも勇者なの!?」
ラシエルは流れる様な動作で背中に手を伸ばすと、その周りに光が集まっていく
冗談抜きで聖剣を取り出そうとするその素振りに、リュドリカが最終的に根負けする
「分かった!分かったから!行かないよっ探索ももうし尽くしてるし!ライダンも待ってる!ラシエル、地上に帰ろう!?」
〈なに~?もお~うるさいなあ……〉
焦って声を荒げた事により、目覚めたレインガルロが眠気眼でこちらを見やる
リュドリカは立ち上がり聖剣を取り出そうとしているラシエルの手を引いた
「レインガルロ!ごちそうさま!俺たちそろそろ行くよ!」
帝王レインガルロはふああと欠伸をし薄目を開けて尻尾を振った
〈はーい、また遊びにおいでよ。キミたちなら歓迎するよ、その時はまた潮吹き見せてね!〉
「分かりました」
「絶対やだよ!?」
ラシエルが冷ややかな眼差しのまま淡々と返事をするのを俺は即座に突っ込んだ
あんな死ぬほど恥ずかしい想い二度とするか!忘れたかったのに、再び羞恥が募る
「お二方、帰還のシールドフィンをご用意しております」
リュドリカ達は騎士団の案内のもと、地上に戻る為に龍宮の門に用意されていた帰還用シールドフィンに乗り込んだ
「またね~リュドリカ、次は二人でデートしよう」
カシミアは凝りもせず、ちょうど発進した最後の別れ際にまで余計な一言を投げつけた
リュドリカの前に座るラシエルの身体がピリ、と強張るのを背中越しに感じた
『っ、ごめん!俺の勇者様がご機嫌斜めになるから!遠慮しとく!』
雑魚威嚇用スピーカーを使い、あまり考えずに大声で発言した言葉は、サファリアの龍宮に響き渡る。ラシエルはそれに驚いてこちらを振り向いた。
遠くで、ヒュウとカシミアの高い口笛も鳴り響く
「今のって……」
そして我に返りとんでもなく恥ずかしい発言をしてしまったと、顔を赤らめ口早に言い訳を並べる
「な、なんだよっ!……嫌だったか?悪かったな。お前が意味不明なところで機嫌悪くなるから今のは仕方なく……」
「いえ、嬉しいです。俺は貴方のものですから」
「……えっ!?あ、そう……」
打って変わって上機嫌になったラシエルは、いつになく嬉しそうにしている。変にピリついたままこの狭い機内で密着するのはこちらとしても居心地が悪いので、まあ良いやと楽観的に捉えた
「では帰りましょう。掴まって下さい」
地上に向かう長い水中でのシールドフィンの操縦を任せっぱなしにしてしまっている俺は、特にすることが無いので、海中の景色を呆然と見つめながら、次の目的地に気持ちを向けることにした
ーー次に目指すべき場所は、光風の国ブリサルトだ
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