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第59話 願いは届かず
〈いやぁ、ほんとに出来るだなんて驚いたよ~!よし、人間の潮吹きも見れたことだし、ボクもキミたちの願いを叶えてあげるよ!〉
帝王レインガルロはこんな人間の恥ずべき行為を見せられて満足気に喜んでいる
俺の隣に居座る邪な勇者もまた、満足そうに微笑んでいるのが何だかとても腹立たしかった
「リュドリカさん、俺はお願いごとなんて興味無いので、貴方の願いを叶えて下さい」
にこにこと屈託なく笑うラシエルは、もう願いは叶いましたしねと付け足す
俺はげっそりとしながら勇者をじろりと睨み付けた
「……あ、そう……じゃあ遠慮なく」
ここまで身体を張って頑張ったんだ。漸くこの物騒なネックレスともお別れ出来ると、先程の醜態はその大きな代償だったんだと、海の如く寛容な心で割り切って、レインガルロに向き合い口を開く
「この首のネックレスを外して欲しいんです」
パールのネックレスを握り、衣服から覗かせリュドリカはレインガルロに頭を下げた
それを見た水龍はパッと笑顔を向ける
〈そんなのお安い御用だよ~!じゃあいくね~!〉
水龍(レインガルロ)の額にある雨の造形を模した水晶がピカッと眩く光る
その光はリュドリカのネックレスに反射して、段々と光度を増していく
「はぁ。これで……」
これで俺は、やっと魔王の呪いから解放されると、安堵の声が漏れた
〈あれ?〉
が、安心したのも束の間、首元でバチィッッと鋭い音が帝王の間に響き渡る。
鼓膜をつんざくようなあまりの五月蠅さに、思わず耳を塞いだ
「づッ!?なん……ッ!?」
〈あれぇ?おかしいなぁ、ボクの龍術が効かないなんて。ごめんねぇ?それを外すのはムリっぽい〉
帝王レインガルロは、他のお願いがあれば聞くよ~だなんて呑気な事を言う
俺は唖然としながら、その言葉を呑み込むのに数十秒と思考が固まった
「は……それじゃあ……」
これ、取れないのか!?
未だに自身の首に鎮座する呪いのパールのネックレス
今の今までのあの醜態はなんだったのか。リュドリカは声が震えて言葉が出ない
〈うーん、だってボクよりずっと強い魔力が掛かってるもん。……ん、あれ?もしかしてそれ……〉
レインガルロは何かを察したようにネックレスを見つめ、怪訝な顔をした
〈それ、僕の力が元々加わってる。パールはボクの龍術を増強させるからね。おかしいな、最後に力を使ったのなんて、ボクが魔王から……〉
リュドリカは焦り大声でその言葉の続きを制した
「あぁっ!!分かった!!出来ないんだな!?じゃあ諦めるよ!他のお願いにする!」
危ない!もしここで魔王の名でも出てしまったらそれこそラシエルに疑われてしまう。
よく考えてみればそうだ。洗脳を掛けてしまうほど魔王の呪力は強大なのに、更にその力を利用してレインガルロのスキルを悪用していたんだ。このネックレスもそこから作られたに違いない。
なんでそんなことに頭が回らなかったんだろうか、自分が浅はかすぎて情けない
「リュドリカさん、そのネックレス……何かあるんですか?」
そのやり取りを聞いて、ラシエルは不思議そうにやはり痛いところを突いてきた
リュドリカは適当に話を誤魔化し、話題をすり替える
「いやっ!別にっ何でも!えーと、じゃあそうだな……何にしようかな……」
この願い以外に何も考えていなかっただけに、いざお願い事を叶えるとなると何も思い浮かばない
「えーと、うーん……」
レインガルロが早く早くと再び急かしてくるので、余計に混乱して頭が回らなくなってしまう
先程の行為もあって段々と腹の音も鳴いてくる。俺は思考回路を止めて出任せに口を開いた
「えと、美味しいもの……いっぱい食べたい、です……」
無意識に放った言葉は、自分の欲求にバカ正直に従ったモノだった
完全に失敗した。
あんなに自分を犠牲にして、その結果が美味しいものって!言った瞬間から後悔しかけている時に、レインガルロはまたパッと笑顔を作り、こちらを見下ろす
〈それだったら簡単だよ~!たくさん食べていってね!〉
水龍の額の水晶が再び光り、瞬く間に眼の前に大量のご馳走が並んだ
息を呑むほどの豪華な食事に、なんかもうどうでもいいやと口から唾液が溢れる。
俺の横で「リュドリカさんはほんとに食べることが好きなんですね」とラシエルがニコリと笑い掛けてくる。俺はそれを見て沸々と怒りが湧いてくるのを必死に堪えて、眼前のご馳走に集中する事にした。
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