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金波銀波(きんぱぎんぱ)

「そうだ住む所、決めないとね。学校はいつから休み?」 そう悠真に問われて、蓮は覚悟を決めた。強い風が蓮の真正面から吹いた。すぐにその勢いは和らぐ。蓮が口を開いた。 「俺は悠真達と暮らさない。」 風が一瞬凪いだ。 「え?」 「俺は行かないよ。」 海がごうごうと大きな音を立てている。吹き荒れる突風が海を荒々しく撫で上げ、波はこれでもかというくらいに騒いでいる。 「なんで?」 蓮は真っ直ぐ悠真の目を見て言った。 「お前が好きだから。兄弟としてなんかじゃない。お前が好きなんだ。」 「…好き…?どういう…。」 悠真の髪を抑える手が震えているのが見えた。 「愛してるってこと。お前とキスして、お前と寝たいってこと。颯太と笑うお前を見ているのが辛いってことだよ。」 悠真の動きが止まる。 「なんだよ、何か言えよ。言っておくけどな、気の迷いだとかそんな話するなよ。ちゃんと、はっきり振ってくれ。」 弾かれるように逃げようとした悠真の腕を蓮がしっかりと掴んだ。 「ちゃんと振れって言ってるだろう、こんな時まで逃げるんじゃねえよ。ちゃんと…。」 「振れない!」 いきなり悠真が大声を出したので、蓮は驚いた。 「振れないんだ。だってずっとずっと初めて会った時から蓮のことが好きだったのは俺のほうだから。」 予想外過ぎて身動きが取れない蓮に悠真は続けて言った。 「気持ち悪いだろう?蓮が俺を好きだと思うずうっと前に俺は蓮を好きだって自覚してた。この気持ちは投げ捨てても、投げ捨てても戻ってくるんだ。颯太と出会えたから本当に忘れられると思ったのに、今更なんでそんなことを言うんだ。」 悠真は溢れる感情を制御することができないみたいに喚いた。明らかに混乱しながら話続ける。 「お前はいつもいつも勝手だ。考える時間くらいくれよ。こんな日がくるなんて、俺だって思っていなかったんだから。」 「考える時間なんかやったらお前逃げるじゃねえか。は?お前俺の事好きだったの?いつから?」 悠真の顔は真っ赤だ。蓮はそれに気をよくして表情を崩す。 「じゃあ、俺の恋人になってくれるってこと?」 その話には悠真は顔をしかめる。 「駄目だろ。俺には颯太がいるし、俺達は義兄弟(きょうだい)だし、それは…。」 もごもごと口ごもる悠真に、蓮はだんだん苛々してくる。 「なんか…ごちゃごちゃうるせえな。」 そう言って蓮が悠真の顔を両手で上向かせてキスをした。 「じゃあ俺にもう1回好きだって言え。俺はそれでいい。この先のことも全部考えなくていいからちゃんと言え。」 蓮の優しく諭すような声音に、悠真の目は僅かに歪み、涙が溢れた。 「蓮が好き、蓮が好きだよおっ…。ずっと、ずっと好きだったっ…。」 ぎゅっと蓮のダウンジャケットを握りしめる手を背中に感じて、蓮も悠真の背にそろりと腕を回した。確かな温もりを感じて、蓮はそれを噛みしめながら瞳を閉じた。蓮は悠真を強く強く抱きしめた。  春を迎えた2人は一緒に暮らし始めた。蓮の大学と悠真の大学の中間あたりのアパートを新居に選んだ。悠真は引っ越しをした。颯太と別れたから良いのだと言いにくそうに言った悠真を見て、蓮は少し心が痛んだ。  蓮達は休日に時々一緒にサーフィンに行く。2人が暮らしたあの家は、蓮が新居に引っ越したらすぐに売りに出されて、もう別の人間が住んでいる。だから、別の浜に行ったっていいのだが、なんとなく2人はいつもここを選んでしまう。 「蓮、今日の波はいい感じだ。早く行こう!」 そう言って、笑いながら悠真が蓮の手を引く。悠真が傍にいる。そのことが蓮にこの上ない幸福を与える。蓮は悠真の手を強く握った。これからどんな波が来ても決してはぐれることがないように。

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