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結婚2

「彼女のこと好きなんでしょ?」  金曜の夜の俺の家での宅呑み。  その最中に、彼女に結婚をせっつかれていると立樹が言う。  立樹いわく、結婚式に出席してからことあるごとに「結婚」という単語が出てくるようになったとか。  まぁそうだろうな。  ゲイの俺でさえ結婚式に出席すると、結婚っていいなと思うんだから付き合っている彼氏がいたら、ついせっついてしまうこともあるんじゃないかと思う。  それが今の立樹の彼女なわけで。それは仕方ないんじゃないかと思う。  それよりも立樹が彼女のことをどう思っているかと、結婚に対する覚悟みたいなものができているかのよるんじゃないかと思っている。 「嫌いじゃないよ。それは確か」 「嫌いじゃないって。それって好きとは違うじゃん」 「そうなんだよな。でも、最近はわからない」 「どうして? 結婚って言われすぎたから?」 「んー。そうなのかな? でも、その前からな気もするし」 「誠実に付き合ってるんじゃなかったの」 「そうなんだよな」  彼女と誠実に付き合っていると言っていたのに、なにがあったんだろう。他に好きな|女性《ひと》ができたとか?  でも、立樹からそんな話は聞いたことがない。 「他に好きな人でもできたとか?」 「好きな人?」 「そう」 「好きな人か」  そう言って立樹はビール片手に考え込む。考え込むっていうことは他に好きな人がいるっていうことなのか。  そう考えるとちょっと胸が痛い。  胸が痛いもなにも今の彼女のことを好きでもそれ以外の人のことが好きでも、俺じゃないのは同じなんだから胸が痛くなるのはおかしいだろうと思う。  それとも最近アルコールが入るとキスをすることがあるから、それで少し期待を持ってしまっているのだろうか。  立樹がどうして俺にキスをしてくるのかわからない。  可愛いとは言われている。立樹にとっては男のことを可愛いと思ったのは初めてだと言う。だからキスをしてくるんだと俺は思ってる。  でもそれは恋愛感情の好きとは違うものだ。  それを俺は同じものと捉えてしまっているのか?   それは絶対にない。だって立樹はノンケだ。男が好きなわけじゃない。恋愛対象は女性だ。そして俺の性別は男だ。だから絶対にないんだ。勘違いしちゃダメだ。 「まぁ俺にはわからないけど、二股だけはやめた方がいいよ」 「それは人としてね。大丈夫、二股はしないよ」  はっきり口にはしないけど、他に好きな人ができたんだろうな。  でもその人の方にはいかないようだ。  だけど、好きな人ができたのなら言って欲しい。  いくらそれが今の彼女じゃないとしても。  俺はそんなに信用できないのかな。  共通の知人や友人がいるわけじゃないから、誰かに言うことなんてないのに。  でも立樹は言ってくれない。  そのことが、立樹に他に好きな人ができたことよりも辛い。   「二股かけないなら今の彼女と別れるのか」 「別れないよ」 「だって好きな人……」 「……」  俺には言いたくないのか、それとも好きになってはいけない人なのか。  なんであれ立樹はそれをなかったことにしようとしている。  だから俺には言わないのかもしれない。  だとしたら俺は無理には訊かない。  でも……。 「話せるときがきたら聞くよ」 「うん。ごめんな」 「いいよ」   友人だからってなんでも話せるわけじゃないと思い直した。  それに表情を見ていると立樹自身も戸惑っている気がした。  まさか好きになるわけがない人を好きになったとか?  それだとしたら立樹の態度も納得できる。  でも好きになって戸惑う人ってどんな人なんだろう。  いや、どんな人でも立樹に好きになって貰えるだけ羨ましい。  俺には一ミリも可能性がないのだから。  そう考えるとやるせなくて、更にビール缶を開ける。  やっぱりノンケを好きになるのは辛いな。  はなから対象外なんだから。  週末だし、明日あきママのところに呑みに行こうかな。  ママに話を聞いて欲しい。ばっさり切られるだけだろうけど。  でもこの寂しさを話せるのは他にいない。 「しんみりするのやめよう! お酒が美味しくなくなる」 「そうだな」 「悠、まだ残ってる?」 「残ってるよ。開けたばっか」 「まだビールあるよな?」 「あるよ。立樹があまり呑んでないからね」 「そっか。じゃあ呑もう。気分切り替えて呑むか」 「うん。今はとにかく呑もう。せっかくの華金だよ」 「ほんとだな」  そう言うと立樹は冷蔵庫から新しいビールを持ってきて開けた。

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