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新しい出会い4
あきママのお店で連絡先を交換した村川省吾さんからは翌日ほんとにメッセージが来た。
お互いにお酒が入っていたし、ああいうお店で知り合ったからほんとにメッセージが来るとは思っていなかった。
お店で言っていた通り昼間どこかで会いたいという。
どうしようかと考えたけれど、昼間お茶だけならいいかなと考えて、そう返信する。
健全に夜にはさよならすると言っていたから、それを信じるならばいいだろうという判断だ。
最も昼間にホテルに誘って来たらその場で帰ってくればいいだけだ。
このことを大翔に話したら、会ってこいの一言だった。
見た目通りだとしたら真面目な人だと思うんだよな。
スクエア型の眼鏡と紺のストライプのネクタイがそれを演出していた。
ほんとに真面目な人なら会ってもいいのかもしれない。
新しい人と出会わないと立樹から卒業できないと思うから。
メッセージをやり取りして、お店で会った翌週の土曜の昼間会うことにした。
お互いどこに住んでいるのかわからないし、今の段階でそこに住んでいるのかといった情報を知らせるのは怖くて、あきママのお店からさほど離れていない繁華街で会うことにした。
約束の土曜日。
待たせるのは申し訳ないと思い約束の時間より早くに着いた。
けれど、省吾さんは既に来ていた。
人を待たせるのは嫌いなのかもしれない。
時間にルーズな人は個人的に好きではないので、そこは好印象だった。
「会えると思ったら早く着きすぎちゃって」
ただ、こうやって俺を思ってる系の言動があるとちょっと怖い。
まぁ、一目惚れしたというから、それがほんとなら仕方がないのかもしれないけれど。
熱量の違いってやつだ。
こっちは相手に対してなんとも思ってないから。
約束時間は昼食後のお茶の時間だから近くのカフェに行く。
土曜日の午後ということで席は埋まってるかなと思ったけれど、運良く一席空いていたのでバッグを置いてコーヒーを買いに行こうとしたら省吾さんに買ってくるよと言われたので、アイスコーヒーをお願いし、席で待っていた。
店内の席が全て埋まっていたからか、注文の列はそれほど長くはなく、さほど待つことはなく省吾さんはコーヒーを持って帰ってきた。
「すいません。ありがとうございます。これ」
とアイスコーヒー代を渡そうとすると拒否される。
「週末にわざわざ時間とってくれたから、そのお礼として気持ちだけだけど奢らせてくれないかな」
「いえ、でも……」
「正直、連絡先を交換しても拒否されるかなって少し思ってたんだよね。でも、そういったことはなかったから。だからここは奢らせて欲しい」
自分の意思で来たわけだから奢られるのはどうかと思ったけど、相手は引く気が全くないみたいなので、ここは大人しく奢られておく。
もし次会うような機会があればそのときこちらが奢ればいい。
「じゃあ、ご馳走になります」
そう言うと省吾さんは嬉しそうに笑った。
あぁ、この人の一目惚れってほんとかもしれない。
俺に一目惚れされるような要素ってないと思うけどな。
でも、ほんとに俺のことが好きだとしたら、まだどうするか決めていないのだから、あまり期待を持たせたらいけないだろうな。
とりあえず、会ってもいいかなってレベルなんだ、今はまだ。
「ほんとに今日は来てくれてありがとう。正直不安だったんだよね」
「いや、約束したので」
ほんとは出会いが欲しいというのがあるけれど、言ってしまうと変に喜ばせそうだから、ここは黙っておく。
「悠くんは真面目なんだね」
「普通だと思いますよ。特に真面目なタイプだとは思わないけど」
「そう? じゃあそういうことにしておこうか。悠くんはどんな仕事してるの?」
「経理です」
「それは真面目そうな仕事だね」
「そんなことないですよ。就職に有利かなと思って簿記の資格を取ってあったので、経理に配属されただけですよ」
「学生のうちに取っておいたんだ」
「はい。大学入ってすぐの頃に」
「そうなんだね。俺なんて大学入った頃はホッとしてなにもしてなかったよ」
「省吾さんはどんなお仕事してるんですか?」
「メーカーの総務部だよ。要はなんでも屋さん」
「総務の仕事って幅広そうですよね。よくわからないからイメージでしかないけど」
「うん、その通り。良く言えば縁の下の力持ち。悪く言えばなんでも屋。そんなところで今年から課長に昇進した」
30歳だから早ければ何らかの役についていてもおかしくないと思っていたけれど、課長か。係長くらいかと思ってた。
きっと仕事も真面目なんだろうな。
「もう課長なんて早いですね」
「そんなことないよ。人数が少ないから」
そう謙遜するけれど、それだけじゃないだろう。
真面目そうって思った第一印象は間違いじゃなかったようだ。
そういったところは好印象だ。
こういう人なら好きになれるかな?
好きになっても大丈夫かな?
立樹のことも忘れられるかな?
今の俺にとっては立樹のことを忘れられるかどうかが一番の問題だ。
「省吾さんは真面目そうだからじゃないですか?」
「それしか取り柄ないからね」
それしか取り柄がないというけど、それは社会人にとって一番大切なことだと思う。
「ね、話変わるけどいい?」
「あ、はい」
そうだ。仕事の話をしにきたわけじゃなかった。
「悠くんは恋人いないんだよね?」
お店では彼氏って言ってたから、多分周りを気にして恋人って言ったんだろうな。
そんな細かいことを思う。
「はい」
「そしたら、お試しでいいから付き合ってくれないかな」
「そんなのでいいんですか?」
「付き合っていくうちにほんとに俺のこと好きになってくれたらいいけど、きっかけがないとそれも無理だしね」
「俺、好きな人いるんです。でも叶わないというか、まぁそんな感じで」
「その人のこと忘れたいんだ?」
「はい」
ここまで言ったら、そんなのゴメンだと思うかもしれない。
それはそれで仕方ない。
「それで良ければ」
まだ今の段階で好きなだけじゃないっていうのと、他に好きな人がいるのとだと話は違ってくる。
それでもいいと言うなら付き合ってみてもいいかもしれない。
「難しいね。俺は悠くんのことほんとに好きだから真面目に付き合ってくれるならいいけど」
「それはもちろん」
「じゃあ付き合ってみようか」
「はい」
今の段階で省吾さんのことを好きになれるかはわからない。
でも立樹のことを忘れられるのなら、その努力はする。
それに真面目な省吾さんに対して遊びでは付き合わない。
「嬉しいな。悠くんと付き合えるなんて」
省吾さんに対して好感は持っている。だからきっと好きになれるはずだ。
立樹は結婚して奥さんがいる。そしていずれ子供もできるだろう。
そんな立樹を見たくない。そのためなら他の人を好きになる努力をする。
そして立樹を忘れるんだ。
嬉しそうに笑う省吾さんを見てそんなことを思っていた。
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