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新しい出会い3
「座ってもいい?」
俺の隣の席を指差し言うので、とりあえず頷く。
この人が出会いを求めているのか、単に呑み友のような感じなのかわからないけど、どちらでもいいと思ったからだ。ただ、セフレだけはお断りだけど。
その人が隣に座ると、それを見てあきママは離れていった。
隣に座るのをOKしたけど、どうしたらいいのかわからない。だから、相手の出方を待つ。
「名前なんて言うの?」
「え。あ、悠です」
「俺は省吾。よろしく。いくつ?」
「あ、26です」
「まだ若いね。俺は30歳」
言葉使いは砕けてるし、こういう場面に慣れてるっぽいけど、いつもこんなことしてる人なんだろうか。
真面目そうに見えるのは、見た目だけ? ナンパ慣れしてる?
「警戒心たっぷりで見られてるけど、ナンパ慣れはしてないよ。だから今もドキドキしてる。ただ、可愛いなと思ったから勇気出して声かけてみた」
省吾さんはそう言って笑う。
そっかナンパ慣れしてるんじゃないのか。
俺もあまりナンパ慣れしてないからちょっとホッとする。
「悠くんはよくナンパされるんじゃない?」
「たまにされるけど、そんなに多くはないと思います」
「ほんとに? それだけ可愛かったら声かけたくなっちゃうと思うんだけど」
「そうですか? そんなことないと思うけど」
「可愛いって言われることはあるでしょう?」
「あ、はい。それはたまにあります」
「だよね。それで少ないってことはないと思うけど。まさか彼氏いる?」
「いえ、いませんよ」
「良かった。それじゃあ彼氏募集とかはしてる?」
「あぁ、まあ、はい」
なんか随分ぐいぐいくるな。
いきなり本題入られてる気がする。
「いきなり過ぎるよね。でも、一目惚れしちゃったんだ」
一目惚れ? 俺に? 一目惚れしたことはあるけど、されたことはないと思う。
「はぁ」
「信じてないでしょう?」
「だって一目惚れされたことないから」
「そうかな? 言われたことないだけじゃない? 少なくとも俺は一目惚れしたよ」
ここはどう反応するのがいいんだろう。
一目惚れされた経験がないから正解がわからない。
チラリとあきママを探すと、ウインクをしてきた。
きっと、言った通りでしょうっていうことなんだろうな。
声をかけてくれる、なんて言った直後に声かけられてるんだもんな。
それより、今どうしたらいいのか教えて欲しい。
あきママに目で助けを求めるけれど、知らんぷりされる。まぁ、そうか。
「結構本気で言ってるよ?」
本気ってマジで?
まぁ、お酒入ってだからその分は差し引いておく。
「ありがとうございます」
「明日ってお休み?」
もしかしてホテルのお誘いか。
出会いは欲しいけど、その手のお誘いは全力でお断りする。
「休みだけど帰ります」
「あ、もしかして誤解されちゃったかな? 決してホテルに誘おうとかそんなのじゃないよ。ただ時間があればじっくり口説けるかなって思っただけ」
時間を言われたことで警戒心が強くなる。
だってそうだろう。
初対面でそう言われたら誰だって警戒するはずだ。
「じゃあ今度、昼間お茶にでも誘っていい? 夜、健全にさよならするから」
「昼間なら」
「決まり。約束だよ」
昼間なら大丈夫だろう。いや、昼間にホテルに行くこともまぁまぁあるけど、お茶と言ってるのだからその心配はないのかな。
「純粋にお茶だけなら。それ以外も含めるのならお断りします」
そう釘を刺した。
「それ以上は含めないよ。明日や明後日はどう?」
急だな。
用事はないけど、急すぎるな。
「じゃあ来週以降で。それで良かったら連絡先交換しよう」
そう言ってスマホを出してくるので俺もカバンからスマホを出した。
連絡先交換くらい大丈夫だろう。
そう思って連絡先を交換した。
「それじゃあ日時はまた追々決めよう」
「はい」
今日、この後時間をどうこうするって言うのが嫌だったから、つい約束しちゃったけど良かったのかな?
真面目そうだから変なことにはならないと思うけど、人間見た目じゃわからないからな。
それに、もし会いたくないと思ったら忙しいとか適当に言って躱せばいいだけだよなとも思う。
いや、それは相手にも言える。
一目惚れしたなんて言ってたけど、お酒が入ってる状態だから素面のときとは違う。
だから、相手がほんとに一目惚れしたというのなら後日にするのが一番いい。
「じゃあすいません、俺帰るんで」
「そう? じゃあ連絡させて貰うね」
「はい」
「じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
これ以上なにをどうしたらいいのかわからず、俺は帰ることにした。
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