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新たな出発5

「立樹、本気?」 「本気だよ」 「でも、同棲ってなったらただ付き合うのとは違うよ?」 「わかってる。それでも悠と一緒にいたい。遊びで付き合う気はない。でなきゃ離婚までしないよ」 「そっか」 「とはいえ、悠は悠で考えることもあると思うから無理強いはできないけど。ただ、俺の気持ちは知っておいて欲しい」 「わかった。まずはさデートしたりしよう。まずはそうやって付き合っていきたい」 「そうだな。じゃぁ、まずは来週末デートしようか。どこか行きたいところある?」 「デートコースっていうところ行ったばかりだしなぁ」  悠が小さな声でそう言ったとき、あの男とデートしたんだ、と嫉妬した。  自分だって唯奈と普通にデートしてたし、それどころか結婚までしたのだから嫉妬するのは違う。  それなのに面白くないと思う自分がいる。自分がこんなに嫉妬深いとは思わなかった。  今まで付き合った子に対して嫉妬したことはあったけれど、そこまではなかった気がする。 「あの人とどこ行った?」 「水族館、プラネタリウム、夜景スポット、テーマパーク。港街」 「人気のデートスポット総ナメか」 「うん」 「それなら、ショッピング、映画、美術館、博物館、海っていうのが残ってるな。でも、敢えて同じとこに行きたい気もするし、どうしようか」 「あのさ、今観たい映画あるんだけど」 「そうか。じゃ映画にするか」 「うん。ミステリーものでも大丈夫なら」 「どんな映画でも大丈夫だよ」  そう言うと悠は嬉しそうな顔をする。歴代彼女たちは俺が観たい映画なんて気にしてくれたことはあったかな、と思う。  自分が観たいんだから、という感じの子が多かった気がする。悠のことは可愛いと思ってきてたけど、こんなに可愛いのならなんで結婚前に付き合わなかったのか、と後悔しかない。 「時間大丈夫なら、これから呑みに行く?」 「立樹は明日は用事ないの?俺は特にないけど」 「俺も。家のことやらなきゃな、ってくらい。よし、じゃ久しぶりに宅呑みするか」 「するする! じゃあ買い物して行こう」  会計を済ませて、遅くまで開いているスーパーに寄り酒とつまみを買う。こうやって悠と宅呑みをするのは半年ぶりだ。  外で呑むのも楽しいけど、酔いを気にせずにリラックスして呑める宅呑みも楽しい。だから結構な頻度で宅呑みをしていた。  今俺が住んでいるマンションは、この間悠の首の傷を消毒した公園から少し行ったところにある。   「なんか、ほんとに入っていいのかな」  そうか。悠がこの家にくるのは初めてなんだと気づく。 「入らないと呑めないだろ」 「うん、そうだね。お邪魔しまーす」  小さな声でお邪魔しますと言い、そろそろと入っていく悠に思わず笑ってしまう。 「なに笑ってるんだよ」 「だって、誰もいないのにさ」 「そうなんだけど、なんかさ」 「もう誰もいないし、誰も帰ってこないよ」 「うん……」  そろそろと入ったのは多分、唯奈を思ったのだろう。それも仕方がないかとも思う。  確かについ最近まではここに唯奈も暮らしていたのだから。  悠はリビングダイニングに入るときょろきょろと視線を回す。 「確かに1人暮らしするには少し広いね」 「だろ? だから悠と一緒に暮らしたい。まぁ、考えてみてよ」 「うん」 「さ、呑もう。なにから呑む?」 「俺ビール」 「じゃあビールで乾杯するか」 「うん!」  先に呑むビールだけ残して後は冷蔵庫にしまい、ナッツ類を皿に出す。  そうしていると、結婚していた半年がなかったように感じるし、久しぶりの宅呑みに柄にもなく嬉しくなる。  それは悠も同じようで、今日会ってから一番の笑顔を見せた。この笑顔を守りたいと思う。別に悠は守ってやらなきゃいけないわけじゃない。悠だって俺と同じ男だ。でも、悠にはいつも笑っていて欲しいと思う。楽しそうにビールを呑む悠にそんなことを思った。  そして悠の腕を取り、ビールをテーブルに置かせると悠の唇にキスをした。 「好きだよ、悠」 「俺も好きだよ。ねぇ今までキスしてきてたのって……」 「そう。悠が好きだったからだよ。もっとも最初の頃はなかなか自分の気持ちを認められなかったけどな」 「そんなに前から……」 「そ。馬鹿だろ」 「ううん。立樹はノンケなんだもん仕方ないよ」 「ありがとう。でも、それで唯奈も悠も傷つけたのは俺のせいだ」  そう。離婚ということで唯奈を傷つけたけど、俺が結婚したことで悠を傷つけた。しかも、悠には式にも来て貰った。ほんとにひどい男だと我ながら思う。でも、その分これから悠のことを幸せにしたいと思った。

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