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新たな出発4
「首は大丈夫か?」
「もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「大丈夫ならいいけど」
俺はいまだに悠が警察に行かなかったことが気にいらない。
悠は自分が悪いと言っていたが、フッたからって襲われてたら、世の中はとんでもないことになってしまう。
襲われたときにも言ったけれど、悠はそれでも自分が悪いからと言い張ったのだ。
「ならいいけど」
俺はそう言うしかできない。
「それより、今日は奥さん大丈夫なの?」
悠が何気なく訊いてくる。
「大丈夫というか、離婚した」
「え?」
急に離婚というワードが出て悠はびっくりしていた。
そうだよな。なんの前触れもなくだもんな。
「あのとき言ったけど、悠が好きだ。だから彼女と結婚生活をおくるわけにはいかないから」
「そんな! 奥さん、傷ついただろう」
「そうなのかな。すごい怒ってた」
「なんて言ったの?」
「そのままダイレクトに、好きな男がいるって言った」
「好きな男って……」
「そう、悠のことだよ」
そう言うと悠はまたしても言葉を失っていた。
「俺と付き合ってるわけじゃないのに」
「そうだけど、好きでもないのに結婚してるのもおかしいだろ。どうせ離婚するなら早い方があいつも再婚しやすいだろうし」
「それでも……」
「それくらい悠のことが好きなんだよ。悠を失うのが怖いんだ」
「立樹……」
「俺さ、結構前から悠のこと好きだったんだよ。悠から告白される前から。そこで俺がこたえてたら良かったのに、悠と……男と付き合うっていうことに覚悟がなかった。唯奈のことは、悠の次に好きだった」
「そんな。奥さん可哀想だよ」
「だな。俺が悪いんだよ」
「わかってるなら!」
「悠が好きなのに隠して結婚生活おくるのはさすがにひどいだろ。それなら離婚した方がそのときの傷だけで済むから。俺も後ろめたくないし。唯奈を失うより悠を失うことの方が怖いって思ったんだよ。もし、あのとき俺が通りかからなかったら悠は死んでいたかもしれない。そう考えるだけでたまらなく怖かったんだ」
「立樹……」
「あのとき公園で言ったことはほんとだよ。悠は好きだなんて言っちゃダメだって言ってたけど、離婚したら言ってもいいよな?」
「本気なの?」
「本気だよ」
俺が真剣な顔で言うと悠はなにか考えているようだった。
とそこで、ハンバーグが運ばれてきて、しばらく会話が止まる。
悠は悠で思うところがあるんだろうし、俺は俺で本気で好きだということは伝えた。後は悠次第だ。
食事中はお互いに無言だった。というか悠がなにも言わないから会話にはならない。
悠と知り合ってから、こんなに無言になることはなかった。
あまりの無言に、急に怖くなる。
もう俺のことを好きでもなんでもなく、俺の気持ちは迷惑なのかもしれない。
それでも、と考える。
そうだとしても、唯奈と離婚することは変わらない。仮に悠にフラれるにしたって、俺の一番の気持ちが唯奈にないのは確かだから。
無言のままに食べて食後のコーヒーで一息つくと悠が口を開いた。
「俺の気持ち、伝えた方がいい?」
「ああ。好きじゃないならそう言っていいし」
「あのね。俺も立樹のこと好きだよ。立樹が結婚してもその気持ちは変わらなかったよ。ただ、あのときは離婚するとは思ってなかったから」
「そうだよな。既婚者相手じゃ不倫になるしな」
「うん。それはさすがにまずいと思うから断った」
「そしたら、きちんと離婚したら俺と付き合ってって言ったら付き合ってくれる?」
「うん。本気ってことなら」
悠は頬を赤らめ頷いてくれる。そんな悠が可愛い。
「俺がもっと早くに決心してたら、悠が襲われることはなかったし、唯奈を傷つけることもなかったんだと思うと自分に腹がたつよ」
「でも、立樹はノンケなんだから仕方ないと思うよ。今までずっと女の人とつきあってきてたんだから」
「そう言って貰えると少し気が楽になるけど」
「でも、奥さんに申し訳ないな。俺がいなかったら幸せになれたのにって」
「悠!」
「せめて次は幸せにしてくれる人と結婚して欲しいね」
「良かった。やっぱりやめるって言われるのかと思った」
「それはないよ。立樹が本気で好きだって言ってくれてるのわかってるから」
やっぱり付き合えないと言われるのではないかと焦ってしまった。
でも、そうではないとわかってホッとする。
「離婚届はもう出したの?」
「昨日出してきた」
「じゃあバツはついたけど独身に戻ったんだ」
「そうだな」
「家はどうするの?」
「それなんだけどさ、一緒に住まないか?」
「え?」
「1人だと少し広いし。それに悠とずっと一緒にいたい」
そう言うと悠は目を見開いて固まってしまった。
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