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未来のために8
仕事を定時で終えてすぐに会社を出る。
定時前に机の上を片付けてパソコンの電源も落として、定時になったら即、席を立って帰っている。
忙しいときにはそんなことはできないけれど、今は暇な時期なのでそれが許される。
ここから電車で乗り換えを含めて1時間半。そこからまた家に帰るのに1時間ちょっと。正直しんどいと言えばしんどい。でも、毎日じゃないし、これは頑張らないといけない。
でも、俺がこんなことをしているということは立樹は知らない。毎日ではないから、ちょっと忙しい日がスポットである、そう言っている。
「また来たんですか……」
「許して頂けるまで何度でも来ます。真剣にお付き合いしているんです。遊びでもないし軽い気持ちでもありません。だから、認めて下さい。お願いします!」
「……」
そう言い終わると玄関ドアは閉められる。
今日もいい返事は貰えなかった。それでも諦めちゃダメなんだ。立樹が縁を切るなんてまた言い出さないためにも俺が頑張るしかない。
今週は一日置きに行ったからさすがに疲れた。それでも明日は土曜日だからゆっくり起きよう。そう思って電車の中でウトウトとしながら家に帰った。
「ただいまー」
帰りの電車の中で寝てこれたから少し体は楽だ。これで明日ゆっくり起きれば疲れも取れるだろう。そう思って玄関を開けた。
「悠!」
玄関を開けると立樹が出てきた。そして急に抱きしめられる。いつもと違う出迎えられ方にびっくりして固まってしまう。
「悠。残業なんて嘘だったんだろ」
「え……」
なんでバレたんだ? あ、お母さんかお父さんから電話でもあったのか? もう来るなって言うことか?
「あ、ごめん、玄関先で」
そう言って腕をほどいてくれるから、とりあえず靴を脱いで家にあがる。でも、頭の中は立樹の言葉で色々と考えてしまっている。
バレてしまったんなら、一緒に行くしかないか。来るな、とは言われなかったので通っていたけれど、俺に言わないで立樹に言ったのか。
「悠。俺の家に行ってたんだろ。さっき父さんから電話があった」
勝手なことしてって怒られるかな。立樹には内緒で通ってたからな。
「それで、パートナーシップ宣誓だろうがなんだろうが勝手にやれ、だって。もういい大人なんだから自己責任でやればいいって。で、今度は2人で顔を見せに来いって」
え? 認めて貰えたの? 今日もいつも通り黙って玄関ドアが閉まっていくのを見たんだけど。
そう思って俺は固まってしまった。
「悠、ありがとうな。1人で頭下げに行ってくれて。俺は今週末にでも行こうと暢気に思ってたよ」
「認めて……くれたの?」
「ああ。認めて貰えた。悠のおかげだよ」
「良かった〜」
認めて貰えたのだと思ったらホッとして、廊下だというのにヘナヘナと座り込んでしまった。
すると立樹が手を貸してくれて、なんとか立ち上がる。
「座るならソファに座れよ」
「うん」
「悠1人に嫌なことさせてごめんな」
「立樹が謝るようなことじゃないよ」
そう言ってソファにドサッと座り込むと立樹が冷蔵庫から水を取ってきてくれる。
「父さんと母さんが根負けしたってさ」
「それで良かったのかな? きちんと認められたのかな?」
「認めて貰えてるよ。だからパートナーシップ宣誓をする日を決めて、式場と写真スタジオを探そう。で、悠が楽しみにしてた新婚旅行に行こう」
「ほんとにいいの? 良かったぁ。」
「俺、なにも知らないでごめんな」
「いいんだよ。俺が誠意見せなきゃいけないって思ったからさ。だから立樹は知らなくて良かったんだよ」
「悠って可愛いけど、いい男だな。惚れ直す」
「立樹! 恥ずかしいってば」
「ま、夕飯食べたらネットで式場とスタジオ探そう」
「うん!」
「じゃあ着替えておいで。食事温め直してくるから」
パートナーシップ宣誓も結婚式も写真撮影も新婚旅行もできる。そう思ったら嬉しくて疲れも飛んで行った。
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