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番外編13

「気持ち良かった?」  頭の上から声が降ってくる。  事が済んで、立樹の肩に頭を乗せている状態で訊かれたので上を向いて答える。 「うん。気持ち良かった。立樹は?」 「最高に気持ち良かった」  そう言うと立樹は俺の頭を撫でてくれる。いつも俺に甘い立樹だけど、セックスのあとの立樹の表情は砂糖と蜂蜜を混ぜたような甘い表情で俺を見る。甘さが半端なくてその表情をみると、愛されているんだなと強く感じる。  と、そんな事後の甘い空気を破ったのは俺のお腹の音だった。色気もなにもなく、グーと大きな音を立てて空腹を訴える。 「くくっ。ケーキ、俺の分が残ってるからそれを食べていいよ」 「そんなに笑うなよ。仕方ないだろ。何回もイクのってめちゃ体力使うんだぞ!」 「わかってるよ」  そう言いつつもまだ笑っている立樹に、俺は唇をとがらせて起き上がり残っていたケーキを食べた。ホールケーキのほとんどを俺が食べたことになる。家に帰ったらほんとにダイエットしないとマズイよな。 「足りた?」 「もう少し食べたい気もするけどルームサービス終わってるじゃん」 「朝まで大丈夫?」 「うん。朝食を楽しみにするよ。朝食ってどこで食べるの?」 「今日のラウンジ。だからゆっくり食べられるよ」  クラブラウンジはスイートルーム利用の人だけなのでそんなに混みあうことはなさそうだ。スイートルームなんて高いだけと思っていたけれど、昨日の貸切露天風呂も無料だったし、クラブラウンジを使えるのならそれほど高いとは言えないのかもしれない。せっかくの記念日だからとスイートルームをチョイスした立樹はできる男だ。そんなできる男が、俺のものってすごいことだなと思う。惚れ直すよなぁ。 「ん? どうした? やっぱり足りない?」 「も〜違うよ〜。惚れ直してたの!」 「朝食で?」 「そんなに卑しくないよ!も〜知らない!」  食べ物の話しをしていて、なんで惚れ直すという話しになったのか立樹はわかっていないようだ。いつもなら言ってしまってるかもしれないけど、今は言ってやるもんか!  そう思ってベッドに再び入って立樹に背中を向けて横になる。いや、ベッドはもう一台あるけど、ベッドは大きいので2人で寝ても余裕があるし、いつも立樹と寝ているから癖で同じベッドに入ってしまう。  背中を向けた俺に立樹が謝ってくる。 「悠。茶化したわけじゃないんだよ。ただ、なんで惚れ直されたのかわからなくて」 「わかってる。わかってるけど……」 「ごめんね。だからこっち向いて。可愛い顔見せてよ、悠」  耳元で謝られて、後ろから腰を抱かれたらすぐに許してしまう。チョロいな、俺。  立樹の腕の中でもぞもぞとし、立樹に向き合う。 「スイートルームってただ高いわけじゃないんだなーって思ったの。そして記念日だからっていいチョイスした立樹はいい男だなって思ったの」  俺がそう言うと立樹は破顔した。 「悠が喜んでくれたのなら良かった。でも、ここのスイートはいろんな付加価値を考えたら当然の価格かな。サービスとか考えたら普通の客室の方が高く感じる」 「そうなんだ。そしたら、また来たいって言っても大丈夫?」 「しょっちゅうは無理だけど、ちょっと贅沢したいときにまた来よう」  そう言って俺の髪を梳いてくれて、俺は気持ち良さに目をつむる。言葉が途切れても手はずっと髪を梳いてくれているから眠くなってしまい、俺はそのまま眠りに落ちた。

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