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第1話 美容室タイニイアイアン
もっさりした少年がスタジオの椅子に座った。眼鏡をかけて髪はボサボサ。目にかかっている。
「どのようにしますか?」
「えーと、カッコよくしてください。」
「もちろん、カッコよくしますよ。
学生さん?ウチは初めて?
高校生なら染めたり出来ないよね。」
「オレ、いくつに見えますか?
もう二十歳になったんだ。
ここは雑誌で見て、思い切って予約しました。」
「ごめんごめん、若く見えた。」
ヤマトは吹き出しそうになったのを堪えて、何食わぬ顔をした。
(俺はプロだ。)
「じゃあ、染めたりしちゃう?」
「うん、お任せします。
とにかくかっこよくして欲しい。」
(俺はプロだ。何回も言うようだけど。)
ヘアスタジオ『タイニイアイアン』のベテランスタイリスト。
『タイニイアイアン』
今、代官山で人気の美容室だ。系列店が数店舗ある。スタッフは全員男性。客層は男性と女性、半々だ。オシャレなお客様が多い。
オーナーは小鉄さん。イケメンだが趣味でドラァグクイーンをやっている。メイクアップアーティストでもある。美容室の経営は旦那さんのジョーさんが担っている。
イケメンの小鉄さんと旦那のジョーさん。二人とも男だよ?って疑問ですか?
そうゲイカップル。ヤマトを含めてゲイが多い。
オーナーの小鉄さんは特別なお客様の予約だけ受ける、超多忙な人。でも他のスタッフも売れっ子で一流のスタイリストばかりだ。
この店でヤマトはもう中堅だろう。今日は若いお客さんの髪に興味があって引き受けた。珍しく予約の指名も入ってなかった。
いつも思う。ホストクラブみたいなシステムだと。この店のスタッフはイケメンばかりでますますホストっぽい。
「どんな風にしたいの?」
「お任せします。」
「周りの規則とか考慮しなくていいのかな?」
「オレ、学生でも無い。ニートだから何でも大丈夫。金髪とか!」
「任せてくれるの?
思いっきり攻めた頭にする?カラーもする?」
「うん、派手にして。
あと、タトゥー入れてくれる人知りませんか?」
「そこまで人生変えちゃう
取り敢えず髪洗って切ってみよう。」
面白い。好きに弄れる素材が来た。ヤマトは俄然張り切った。
「仕事に影響しない?何やってる人?」
「うん、無職。親のカード持って来た。
これから何処かに遊びに行こうと思って。
クラブとか、教えて欲しい。」
タトゥーを入れて髪を染めて。典型的なガキの考える事だな。
「眼鏡取ってくれる?見えないかな?」
「大丈夫、コンタクトも持ってるから。」
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