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3-1.ようこそ、リドネブへ
◇
いつもの朝だ。
ゆっくりと瞼を開けると、ベッドの隣で眠りについた爺の白髪頭が見える。
ああ、よかった。全部夢だったんだ。ずいぶんひどい夢をみた。
でも大丈夫だ。爺はここにいるし、何も心配しなくていい。
「じいちゃん、おはよう……」
もう少しだけ、ロキは瞼を持ち上げた。窓からは柔らかな光が差し込んでいて、爺の白髪はいつもより艶やかに見える。
なにかおかしい。
そう気づいたのは、白いまつ毛が影を落とした頬が、シミや皺ひとつなく陶器のように滑らかだったからだ。
ロキは一気に覚醒して、上半身を起き上がらせた。
「だ、誰……?」
知らない部屋に知らないベッド、そして隣に知らない男がスヤスヤと眠っている。
「しかも、な、なんで裸?」
眠る男は全裸だった。
ロキは視線で男の体を辿り、下腹部にある立派なものを見つけると、思わず「おお……」と感嘆の声をあげてしまった。
だんだんと眠る前の記憶が呼び起こされていく。昨日は散々な目にあって、ようやく見つけたこの小屋で眠ったのだ。そう、白い大きな犬と。
「あれっ⁈」
いない。部屋中あちこち見渡したが、白い犬はどこにもいなかった。確かに、寝る前まで隣にいたはずだが、どこかに行ってしまったんだろうか。
いや、いい。犬のことはこのさいどうでもいい。考えるべきは、目の前でスヤスヤと(全裸で)眠るこの男のことだ。
肌艶から言ってまだかなり若い。ロキと同じくらいの年齢だろうか。頭髪と同じく白いまつ毛が、閉じられた瞼を儚げに縁取っている。しかしその印象とは相反して、しっかりと通った鼻筋と、確かな輪郭と首筋には精悍な印象をうけた。体にはしなやかな筋肉がつき、全体的に白くてハリのある肌だ。ちなみに下の毛まで白いので、まるで神が眠る姿を模った石膏像のようだとロキは思った。
この男は一体誰なのか。そう考え始めた途端、ロキはある可能性を思いつき、それと同時に、何故自分は昨夜の時点でその可能性を考えなかったのか、と強く後悔し始める。
この小屋の主人と思われる男は、背中からナイフが刺さって死んでいた。それは間違いなく誰かに殺されたということだ。
男を殺した誰かがいる。そして、その誰かはまだこの小屋の近くにいる可能性があったのだ。
ロキは、「ヒュッ」と息を吸い込んだ。
ーーこいつじゃないか? 小屋の主人を殺したのは……
そう思ったその瞬間、白いまつ毛が持ち上がり、白髪の男がパチリと目を開いた。
「ひっ……」
ロキは背中に針金を通したかのように固まった。
白髪の男は薄いブルーの瞳をじっとロキに向けながら、むくりと体を起き上がらせた。
「あ、あのっ、俺……そのぉっ……」
喉がどんどん絞まっていくかのように、ロキは上手く言葉が出てこない。逃げ出そうにも、ロキは今ベッドが寄せられた窓際にいて、白髪の男を飛び越えでもしない限りはベッドを降りることができない。
「えっ、と、な……ひいっ!」
しどろもどろに言葉を探すロキに、白髪の男はパチパチと音が鳴りそうな瞬きをしながら、ずいと顔を寄せてきた。
驚くほど綺麗な顔だ。だが、それが逆に怖い。
こんなに綺麗で無垢な瞳で、あの男を殺したのか……
「あぁぁ! あのっ、あの、お、俺、その、も、もう行かなきゃって言うかぁ、そ、そこどいてくだっ……んむぐぅっ! な、なにっ、あっ、ちょっ、えっ? な、なんで……なんで舐めるのっ!」
ロキは情けない声をあげた。
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