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3-2.
白髪の男は突然ロキを抱きすくめ、かと思ったら、ロキの口元をまるで躊躇う様子もなくペロペロ舐め始めたのだ。しかも一度ではなく何度も何度も。
「えっ、ちょっ、な、はなせっ!」
ロキはみじろぎするが、白髪の男の逞しい腕を振り解くことができない。
さらに白髪の男は、鼻や口元をロキの首筋に擦り付けた。くすぐったくて仕方のないロキは、思わず上擦った声で「やめろ」と言いながら男の肩を押す。
少し体は離れたが、お互いの顔が向かい合った。すると男はまたロキの顔や口元を戯れるように舐め始めた。
意味がわからない。怖すぎる。
「や、わぶっ、こ、こら、やめっ! ん、ぶっ!」
ロキは激しくみじろぎすると、少し白髪の男の手が緩んだ。
その隙にするりと抜け出して、ロキはベッドの下に転がり落ちた。
そこで止まっている場合ではない。
ロキはすぐに脱いであった靴と、昨日食料や衣服を詰め込んだ鞄を引っ掴むと、勢いのままに小屋の戸から外に飛び出した。
そのまま川を目指そうと林の中に飛び込み、そこで一度背後を振り返る。
「い、いやいやいや! むりむりむり! なんで追いかけてくんのっ!」
ロキは叫んだ。
そこにはロキの後を追う、白髪の男の姿があるのだ。その表情はまるで、蝶を追いかける子供のように嬉々としている。
怖すぎる。
何が怖いって、裸で、笑顔で、追いかけてくる!
「くっ、来んなよっ!」
ロキは持っていた靴を投げ捨てた。しかし白髪の男はその靴には目もくれない。
草の葉があちこち擦れ、ロキは腕を振り回しながら必死で走るが、木の根に足を取られてしまい、思い切り前方に倒れ込んだ。
起きあがろうと手をつくが、すぐ後ろで鳴ったがさりと草を掻き分ける音に、咄嗟に体を反転させた。
その瞬間、真っ白な塊がロキ目掛けて飛び上がる。
「ぎゃあっ! なになになに⁉︎」
体にずしりとした重みがのしかかり、ロキはジタバタと手足を動かした。
おかしい。
確かに、ロキを追いかけてきたのは、白髪でやたらと顔の綺麗な裸の男だったのだが、今ロキの上に乗っかって、ワフワフ言いながらベロベロと顔中舐めているのは、なんと昨夜のデカくて白い犬なのだ。
「なっ、なんでっ、おまっ、んぶっ、だっぁっ、こ、こら、うぐぅっ、この、口を舐めるな!」
ロキは両手で犬のつんと尖った口元を掴み、開かぬように顎を抑えた。
「な、何すんだよっ!」
ロキが声を荒げて、犬はそこでやっと動きを止めた。なぜロキが怒っているのかわからないと言うように、不思議そうに瞬きしている。
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