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3-6.

 店主はロキの姿を見て、見ない顔だと訝しんだが、次に狭い店内に無理やり入り込んできた犬をみて、さらに眉を寄せている。 「いらっしゃい」  愛想は一切見せず、ぶっきらぼうな物言いに、ロキは一瞬怖気付きそうになった。しかし意を決して、鞄の中から鞘付きのナイフと方位磁石を取り出して、カウンターの上に置いた。 「売りたい」  ロキが言うと、店主はロキの表情と、カウンターの上とを交互に見た後、ようやく差し出した品を手に取り眺め始めた。  カウンターの向こうには、いましがた買い取った品々なのか、貴金属やら農具やら、さらには鳥籠に入れられた、鮮やかな色の鳥までもが、雑然と置かれていた。  犬がその鳥に興味を示したのか、カウンターの上に前足を上げ、ハフハフ息を吐いている。  ロキは慌てて、やめろと犬の頭を抑えた。  やがて、品定めを終えた店主が、何も言わぬまま一度店の奥へと下がっていった。どうしたのかと伺っていると、すぐに戻ってきた店主が、五枚の銅貨をカウンターの上に放り投げた。 「こ、これだけ?」 「あ?」 「あ、い、いやっ……ありがとう……」  買い取ってくれるだけましか。元は自分のものでもないわけだし、贅沢は言っていられない。  しかし、たった銅貨五枚ではすぐに路銀は尽きるだろう。これで、海の向こうまで辿り着けるのだろうか。  いや、海の向こうに行って終わりではない。爺のいるヴァルハラという場所は上層にあると言っていたのだ。その道のりはかなり長いはずだ。  ロキはため息をついた。犬は呑気にハフハフ息をしながら、薄いブルーの瞳でロキを見上げている。 ――立派な毛並みだなー! ――高そうな犬!  カウンターの向こうの鳥籠の鳥がピチチと鳴いて、ロキはハッと思いつた。 「あのっ、犬は⁈  買取してくれる⁈」 「あ? 犬?」  店主はロキの言葉に、ジロリと犬を見下ろした。 「そ、そう! この犬! 上等な毛並みだろう?」  ロキが言うと、店主は顎に手を当て口髭を撫でた。満更でもないと言うことだろうか。 「目の色もほら、こんなに綺麗!」  もうひと推し、とロキは犬の顎を持ち上げ、その顔を店主に向けさせた。  店主は「ふむ」と唸ったが、しばらくして首を横に振った。 「デカすぎるな」  店主の答えに、ロキはカウンターに手をつき食い下がった。 「デカいのはいいことじゃないか! ロバの代わりに荷物だって運べるし、番犬にもなる」 「いや無理だ、デカすぎる。在庫として抱えておけねぇ」  ピチチッと籠の鳥が鳴いた。  確かに、この犬はデカい。今だって、ほとんど無理やり店内に入り込んでいるから、犬のお尻は扉から少しはみ出ているほどだ。店の倉庫にどれほどの余裕があるのかはわからないが、少なくともカウンターの中には入れないのは確実だ。 「あ、でもっ! こいつ、凄いんだよ!」 「あ?」 「なんと、この犬は人間になれるんだっ! しかもなかなか美丈夫だぞ! ご婦人方はきっと気にいる!」  ロキの言葉を店主はフンと笑い飛ばした。 「にいちゃん、金が欲しい気持ちはわかるが、つくならもっと上手い嘘つきな」 「い、いやっ嘘じゃ……」 「つーか、こいつ」  店主はロキの言葉を遮り、ぬらりとカウンターから身を乗り出して、あらためて犬を見下ろした。 「犬じゃなくて、狼じゃねぇか?」 「え……お、狼?」  ロキが聞き返すと、店主は「ああ」と頷いた。 「狼と……犬って、具体的に何が違うの?」 「俺もはっきり知らねえが、大きさとか顔つきとか、あとはなんとなく犬歯がでかいとか?」  店主は眉を寄せ、中空を見つめたが、その後すぐに首を振った。 「まあ、いい。今のは忘れてくれ、白い狼だなんて、それじゃフェンリルじゃねぇか。んなわけねぇし、こいつはただの犬だ。てめぇで可愛がってやんな」 「え? フェンリル……?」  ロキは店主の言葉に、眉を上げた。

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