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4-4.
三人のヨトの巨人族たちは、身なりや背格好こそ似通っているが、その関係性は会話を聞いてすぐに明らかになった。
おそらく赤い髪の男がリーダー格で、他の黒髪の二人は護衛か、または取り巻きといったところだろう。
何やら不機嫌な態度の赤髪の男を、他の二人はどうにか宥めようとしている様子だ。
「あー、くそう! まだ腹の虫がおさまらねえ! あの鴉、今度あったら丸焼きにして食ってやる!」
ガタンと大きな音を立て、赤髪の男が樽ジョッキを乱暴にテーブルにおく。反動でワインがバシャリと跳ね上がった。
眉尻と目尻が上向いていて三白眼の赤髪の男は、近くで見ると僅かながらにあどけなさの残る顔つきだ。意外と若いのかもしれない。
赤髪の男が言った鴉とは、昨晩のオーディンの遣いのことだろうか。その口ぶりから言って、戦いの決着はつかなかったようだ。
「しかし、奴らもあの戦闘でオメガを見失ったようだったな」
「そうそう、カァカァ慌てちまって、傑作だったぜ」
黒髪の男二人は酒を酌み交わし、ゲラゲラと笑っている。赤髪の男だけが不機嫌に口を結んでテーブルの上を睨みつけていた。
「まあ、ヴァクよ。とりあえず今回は仕方ねえさ。どうせ、上層に戻るには必ずビフロストに向かうはずだ」
「そうそう、てことは必ずヨトの前を通るからな、そこで多勢で待ち伏せして、横取りをすりゃあいいさ」
ヴァクというのは赤髪の男の名前のようだ。
黒髪の男たちは口々にヴァクに言葉を投げかけ、その肩を叩いたり、皿に乗った料理をすすめてやったりしている。
「俺はな、間に合わせたかったんだよ。オヤジの誕生日に」
視線を逸らしたヴァクは唇を尖らせながら眉根を寄せた。黒髪の巨人二人は顔を見合わせ瞬きをした後、お互いになんとも言えない笑みを作った。
「あー、見た目はこんなにゴツくなっちまったけど、いつまでも可愛いやつだなお前は」
そう言って黒髪の男たちは二人してヴァクの頭をワシワシと撫でる。ヴァクは「よせ、やめろ」と言いながら男たちの手を払い除けていた。
「まあ、オメガは無理だったけどよ。とりあえず、今日も土産探しにいこーぜ? もともと目的はそっちだろ?」
「そうそう。せっかくわざわざミッドガルドまで来たんだ、俺らも楽しまねえと」
黒髪の二人がニヤニヤしながら言うと、ヴァクはフンと鼻から息を吐いた。
「まあ、確かに人間の娘は可愛らしいが、多分オヤジの趣味じゃねえ」
ヴァクは腕を組んだ。
「オヤジはでけぇ女が好きだ。昨日の娼館にいた娘じゃ華奢すぎる」
「でけえ女って、エルフとか? まあエルフはデケェってより長いって感じだが」
「おいおい、オヤジがエルフみてぇな性悪好みな訳ないだろ? 無知で純粋で、でっかい人間の娘がオヤジの好みだ」
自信満々に言い切るヴァクだったが、正面の二人は首を捻っている。
「単純にオヤジがデケェから、華奢な娘じゃ耐えられないってことか?」
「……まあ、そうとも言うな」
「ほんじゃ、オメガっつうのは、デケェ女なのか?」
「……知らねえ、でもまあ、子作りに長けた存在らしいからな。デカくて頑丈で、まあ、あっちの方も具合が良いんだろうよ」
ヴァクの答えに、ロキは背筋が粟立ち自身の肩を抱いた。
この三人の巨人がオメガを捕まえて差し出そうとしていたと言うことは、オヤジと言うのはヨトの巨人族の中でも、地位の高い人物なのだろうか。
確か鴉は、「ヨトの巨人族はロキに子供を創らせようとしている」と言っていた。華奢な娘では耐えられないほどのデケェオヤジの相手など、ごめん被りたい。
ますますオメガとして彼らに捕まるわけにはいかなくなった。
しかし今の会話で、いくつか有益な情報を得ることができた。
まず、ヨトの巨人族はオメガの名前どころか見た目や外形的な性別までも知らないらしい。
やはり、オーディンの遣いが、こいつがオメガだと連れでもしていない限り、ロキが彼らの前に姿を現したとて、気づかれることはないようだ。
そしてもう一つは、オヤジの誕生日までに、彼らはこの町で見繕った土産を持ってミッドガルドの外に帰ると言うことだ。
土産とはつまり、さっきの男が嫁と称していたものだ。実際に嫁として迎え入れられるのかどうかは定かではないが、選ばれればミッドガルドの外まで、この巨人族が連れて行ってくれると言うわけだ。
「そんじゃあ、これ食ったらよ、昨日とは違う店に行って見ようぜ?」
「たしか、この店の裏に入った先にも娼館があったな?」
「そこにデケェ女はいるのか」
ヴァクが問うと、黒髪の二人は「いるんじゃねえか?」と適当に切り返し、ヘラヘラと笑いながら酒を飲んだ。
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