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5-2.

 店の男は値踏みするかのように、ショールで覆われたロキの顔を覗き込んでくるので、ロキは恥ずかしがるふりをしながら、さりげなく顔を背けた。 「あんたらもヨトの巨人族に取り入ろうってくちか?」  店の男の声音にはどこか苦々しい色が含まれている。巨人族目当てに何人もの娘が訪問してきて、うんざりしているということだろうか。 「はい……よろしければ、ア、アタシたちにもお相手させていただきたく……」  ロキが恐る恐る言葉を紡ぐとその途中で、店の男が急にカウンターから身を乗り出してロキの手を握った。 「ちょーーーーど、良かった! あいつら、どんなに綺麗な娘を当てがっても、こうじゃねえ、ちげぇってわけわかんなくて! さっきまでこーーーんなに長かった待機列が今はけちまったとこなんだよ!」  一転して目を輝かせた店の男の様子に驚いたロキは、思わずびくりと肩を震わせ、翡翠の瞳で瞬いた。  ちょうどその時、奥から少々苛立ちをはらんだ声がする。 「おい! 次はまだか! さっさと連れてこい!」 「はーい! た、ただいまー!」  店の男は猫撫で声を返すと、必死の形相でロキを振り返った。 「てことだから、頼むよ」  そう言って店の男はカウンターから出てくると、こっちだと廊下の奥を指し示す。そして、ロキの後ろについてきたフェンを見上げ一瞬ギョッと目を見開いた。 「あ、アタシの連れなのです、オホホ」  ロキの言葉に、店の男は一瞬顔をひくつかせたが、「まあ、何がハマるかわかんねぇしな」と呟いている。  ヨトの巨人族らがいるのは廊下を進み階段を上がった奥の部屋だという。一番上等な部屋らしい。そこに着くまで、せっせと酒や食事を運びこむ何人もの使用人たちとすれ違った。 「じゃあ、次の娘が集まるまでなんとか時間稼いでくれよ」  店の男はロキに耳打ちすると、ノックの後で扉を開いた。 「お待たせしましたぁ、次の娘を連れてきましたよ」  店の男はまた猫撫で声でそう言うと、「さあ早く」と言うようにロキを中へと促した。ロキはゆっくりと扉を潜り、室内に足を踏み入れる。  広い室内にはコの字に置かれた大きなソファとその中心に酒や料理が置かれた大きなテーブルがある。三人のヨトの巨人族たちは、それぞれソファにどかりと深く腰掛けていた。  両脇に座る二人の黒髪の巨人族はその両手に美しい娼婦を侍らせている。中央に座るのは赤髪の巨人族ヴァクだったが、彼の隣には誰も座っていなかった。どうやら、お眼鏡にかなう娘がいないと騒いでいたのは彼のようだ。  視線が一気にロキに注がれた。そして、ヴァク以外のものの視線は次にヴァクに注がれた。「この娘はどう?」とでも、彼に問いかけているかのようだ。  少しだけ身を乗り出していたヴァクは、落胆のため息をついた後、ソファの背もたれに寄りかかった。  「ダメだったか……」と周囲が思った次の瞬間、ヴァクがまたガバリと体を起こして身を乗り出した。その目は見開かれ、髪と同じ色の赤い眉がグッと持ち上がっている。  室内の全員がヴァクの視線の先を追った。  そこでは、デケェ女に扮したフェンがドアの上枠をくぐったところだった。女性ものの衣服から隆々とした筋肉がのぞいている。   「こんばんは、ヨトの巨人族様方、ご一緒させていただいても?」  フェンにはしゃべるなと言いつけてある。だからロキは率先して彼らに許可を乞うた。  下げた頭を少し上げて様子伺うと、ヴァクの視線はフェンに釘付けだ。うまくいったとロキはショールで隠した口元にニヤリと笑みを作った。 「いいぞ、座れ」  ヴァクに促され、ロキとフェンはヴァクを挟んでソファに腰を下ろした。 「おまえ、いいぞ! デケェな! オヤジが好きそうなデケェ女だ!」  ヴァクはほとんどロキに背を向け、フェンの方ばかりを見ている。  フェンはロキの言いつけを守り、口を開かないままただパチパチ瞬きを繰り返していた。 「ヴァク、土産は……そのぉ、いいのか?……そいつで……」  左に座った黒髪の巨人族が娼婦の乳を揉みながら言った。フェンの顔を確かめて、何やら笑いを堪えている。 「ああ、決まりだろ! こんなにデケェ女他にいねぇ! オヤジの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ!」  ロキは安堵の息を漏らし、ヴァクのグラスに酒を注いだ。あくまでロキはフェンの付き添いなので、引き立て役に徹するつもりだ。 「ん、まてよ? おまえ、ほんとに女か?」  不意にヴァクが声音を変えた。  ヴァクの手がフェンの股間に伸びていくのを見て、ロキは焦り、咄嗟にヴァクの袖を掴んだ。  その仕草に驚いたヴァクがロキを振り返る。 「あ?」  ヴァクは訝しげに眉を寄せた。  焔の瞳に見下ろされ、ロキは猫に睨まれた窮鼠のように、背筋を伸ばしごくりと唾を飲見込んだ。 「も、もう! そっちばかりじゃなくて、ア、アタシも構ってくださいな!」  咄嗟の機転で、酒を注いだグラスをヴァクに手渡し、ロキは精一杯体をくねらせた。下手したら殺されるかも……と、嫌な汗がロキの背中を伝っている。

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