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5-8.
◇
空が白んで少ししてから、小鳥が囀りを始めた。
仰向けに眠っていたヴァクがぐっと眉を寄せ、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
ロキはベッドの傍に座り、ヴァクの表情を覗き込んだ。
「なんだ? 朝……?」
開かれた窓の外を見た後で、ヴァクがロキを見上げてそう尋ねた。
「はい、ヴァク様。 おはようございます」
ロキがシーツに三つ指ついてそう言うと、ヴァクはゆっくりと体を起こした。
「イテテッ……」
頭を抑えるヴァクに、ロキはサイドテーブルの上の水差しからグラスに水を注いで手渡した。
「二日酔いでしょうか、お飲みください、ヴァク様」
「二日酔い?」
「はい、頭が痛むのでしょう? おそらく二日酔いです。たくさん飲んでらっしゃいましたから」
「二日酔いってのは、後ろの頭が痛むのか?」
「……は、はい。後ろだったり横だったり、顎が痛むなんて人もいるらしいですよ?」
ヴァクはまだ険しい顔のままグラスを受け取ると、ぐっと一気に傾けた。そして空いたグラスをロキに返すと、思い出したかのようにその姿を繁々とながめた。
ロキは女性もののスカートから、部屋に備え付けられていたサテンのローブに着替えている。
まとわりつくようなヴァクの視線から逃れるように、ロキはもじもじ体をくねらせながら目を逸らした。
「すまねぇな、ロキ。どうやら昨日は途中で寝ちまったようだ」
ロキの仕草を恥じらいと取ったのか、ヴァクはニヤリと口元に笑みを作りその手をロキの腰に回した。
「まだ朝も早えようだ。少し遊ぼう」
そう言ったヴァクの手をロキは慌てて振りといた。
「ひ、ひどい! ヴァク様! まさか、覚えてらっしゃらないんですか⁈」
ロキはぐるりと体を翻し、ヴァクに背を向け背中を丸めた。そして手のひらで顔を覆って、しくしくと肩を揺らしてみせる。
「えっ? お、おい。ロキよ、どうした? 泣いてんのか?」
ヴァクが慌てた声を出して、ロキの肩に手を置いた。
「昨夜はあんなに激しく求め合ったと言うのに! ヴァク様は全てお忘れなのですねっ⁉︎」
「な、なんだとっ⁈」
ロキはチラリと肩越しにヴァクの表情を伺った。驚愕したように眉を持ち上げ唇を薄く開いている。
「ほ、ほんとうか? まったく覚えてねぇんだが……」
「あんまりです! ヴァク様! うぅぇぇん!」
「おお、ロキ、泣くな、泣かないでくれ!」
ヴァクはロキの体を振り向かせると、宥めるよう胸に抱き、大きな手のひらでポンポンと背中を撫でた。
「確かに、お互い激しく求め合いすぎて、あまりの快感でヴァク様は気絶なさってしまいました……しかし、まったく覚えていらっしゃらないなんて……」
ロキは言い募った。
ロキが額をヴァクの胸元に擦り付けると、ヴァクはなおさら焦ったようにロキの髪を撫でている。
「な、そ、そんなっ……き、気絶しちまうほど……⁉︎」
「はい、ヴァク様は仰っていました……たまんねー! こんなに気持ちいのは初めてだぜぇ、ヒャッホーイ!っと……」
「ヒャッホー……? 俺が?」
「は、はいっ……と、とにかく、俺の体が最高だと!」
そう言ってロキが顔を上げると、ヴァクは「なんてことだ」と呟いて、額に手を置いている。
「全く覚えてないとはもったいないことをした! ロキ、まだ時間はあるもう一度だ!」
「あぎゃっ!」
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