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5-9.
ロキはベッドに押し倒され、慌てて覆い被さるヴァクの肩を押した。
「無理です、ヴァク様!」
「あぁっ⁈」
鼻息を荒くしながら自らの下履きの前を開こうとしていたヴァクが眉を寄せた。
「そ、そのっ、昨日、盛り上がりすぎたせいで、だいぶ孔が痛むのです。ちゃんと治るまで休ませないと、きっと使い物にならなくなってしまいます‼︎」
ロキがそう訴えると、ヴァクはピタリと動きを止め、「そうか」とやや不満げに言いながらも、ロキの腕を引いて体を起き上がらせた。
「それじゃぁ、仕方ねえな」
「はい……ヴァク様……それで、その……」
「あ?」
「もしかして、約束もお忘れですか?」
「なんだ」
「体の相性がよければ、ヨトに連れて行ってくださるという約束です」
ロキは体をくねらせ、自らの肩を抱きながらパチパチと瞬きをして見せた。
ヴァクは口元に手を当てながらふむと考え込んでいる。
「しかし、覚えてねぇしな」
「ひ、ひどっ……ヴァク様! あんなに熱い夜を過ごしたと言うのにっ……うぇぇぇん!」
「お、おいっ! わかった! 泣くな!」
ヴァクは目元を毛布で擦るロキの肩をなでた。ロキの目元に涙など流れていないことにヴァクは気がついていない。
「連れて行ってくださるのですか?」
「あぁ、もちろんだ! 気絶しちまうほどの逸材なんてそうは出会えねぇからな!」
「あ、ありがとうございます!ヴァク様」
ロキはガバリとヴァクの胸元に抱きついた。
「おお、可愛いやつだなロキ。具合が良くなったらまたたっぷり楽しもうな?」
「は、はいっ、でも、ちょっと時間がかかるかも、イテテ……」
尻を撫でてきたヴァクの手をそう言ってロキは払い除けた。
「そうと決まれば早速身支度しねえとな!」
ヴァクはベッドから立ち上がると、「湯浴みをするが一緒にくるか」とロキに尋ねたが、ロキは「明るいところでは恥ずかしい」などと理由をつけて誤魔化した。
ならば一人で行ってくると、ヴァクは部屋の外に向かった。「頭は痛むが気分はいいな」などと呟いている。
「お前にも何か服を買ってやろう。ヨトは雪国で冷えるからな。オヤジへの土産のデケェ女の分も……」
部屋のドアを開けたところで、ヴァクは言葉と動きを止めた。その視線の先のメインの部屋のソファには、白狼姿のフェンが寝そべっていたのだ。ヴァクはそれを見て、パタリと静かに扉を閉じた。
「……デケェ犬が見えたんだが?」
「オホホ……で、ですね」
ロキは笑って誤魔化した。
今度ヴァクは勢いよく扉を開く。
「何でこんなところに犬っころが⁈ あのデケェ女はどこ行った⁈」
騒ぎ出したヴァクの声に向かいの部屋から仲間の巨人族の男たちが顔を出した。その傍には乳房をあらわにした娼婦たちが、眠たそうに男らの腕にまとわりついている。
「何騒いでんだ、ヴァク……」
「朝っぱらから元気なやつだな」
黒髪の巨人族たちは欠伸をしながら言った。
「デケェ犬がオヤジへの土産を食っちまった‼︎」
「「は?」」
今にもフェンに飛びかかりそうだったヴァクの腰に、ロキは慌ててしがみついた。
「ヴァク様! ち、違うのです! この犬は俺のペットでして!」
「……あ? お前の……?」
「は、はい。実は俺は天涯孤独の身の上でして、この犬だけが家族なのです。幼い頃から片時も離れず過ごしていたので、おそらく今も俺のことを心配してついてきてしまったのかと……」
ヴァクはロキとフェンを交互に見ながら「そういうことか」と呟いている。
「しかし、デケェ女はどこに行った」
「あ、は、はい。デケェ女は昨晩のうちにお帰りになりました」
「あ⁈ なんだとっ⁈」
ヴァクは声を荒げて片眉を上げた。
「あいつはオヤジへの土産だ! 連れ戻すぞ!」
「お、お待ちください! ヴァク様!」
またロキはヴァクの腰にしがみついた。
「あ、あのデケェ女は、どうやらヴァク様に気があったようでして……俺とヴァク様の情事を聞いて、たまらず飛び出してしまったようなのです!」
「な、そ、そうなのか……⁈」
ヴァクはまた驚愕したように目を見開いた。
「し、しかし、デケェ女は俺の好みじゃねえしな」
「はい……ですが、彼女の気持ちもわかってやってください」
「まあ、確かに。俺に気があるっつうのに、オヤジの相手をさせるのは酷か……しかし、そうなるとオヤジへの土産はどうすりゃいいんだ」
そう言いながら、ヴァクは顎に手を当てた。
仲間の巨人族たちは、また欠伸をしたり、隣の娼婦の胸をつついたりしている。
「ワゥッフン」
と、フェンが鳴いた。その声に、ヴァクが顔を向ける。
ブルーアイがロキを見つめ、口が開きハァハァと犬らしく(狼だけど)呼吸をしている。
「まあ、でかけりゃいいか、この犬をオヤジの土産にしよう」
「ワゥッフン!」
ヴァクの言葉に応えるように、またフェンが鳴いた。
「おー、あのデケェ女よりそっちの方がいいと思うぞ」
「あぁ、オヤジもきっとその方が喜ぶ」
仲間の巨人族のたちが、ケラケラと笑った。
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