48 / 150

6-9.

 ヴァクのその行動はやはり周囲の視線を集めたが、もはや抵抗するのも面倒で、ロキは子供のようにヴァクの肩にしがみついた。  肩越しに後ろからトコトコとフェンがついてくるのが見える。他の巨人族の二人はそのまま席に残って酒を飲むつもりのようだ。  食堂のある階から更に階段を登って甲板にでると、海風が吹き付けた。船内は少し暑かったが、この場所ではヴァクの用意してくれた服装でちょうど良かった。  船端の柵はやたらと高さがあるようだが、おそらく大柄な巨人族のための仕様なのだろう。ロキはヴァクに抱え上げられているおかげで高くなった目線で、夜の海を見渡した。  出航してからしばらく経って、すっかり暗くなった水平線の向こうに、二つの光が浮かんでいる。光源というより、船の灯りを反射させているような輝きだ。 「あれは?」  ヴァクが見せたいのはあの光なのだろう。ロキは指さし尋ねた。 「あれがミッドガルドの大蛇だ」 「えっ⁉︎ あの二つのまん丸いのが⁈」  ロキは驚き思わずヴァクの腕から身を乗り出すと「危ねぇだろ」と抱き直された。 「あのまん丸は大蛇の目玉だ」 「あ、ああ! なるほど!」  言われると確かにそう見える。 「あいつはああやって遠くからこっちを見てんだ。でも近寄っちゃこねぇ」 「え? なぜですか?」  そう聞かれるのを待っていたかのように、ヴァクはフフンと鼻を鳴らした。 「|巨人族《俺ら》にビビってんのよ」 「……はぁ」  ロキが少々訝し気に頷くと、ヴァクはすぐに言葉を続けた。 「前にオヤジがな、ヤツの尻尾をぶった斬ったんだと」 「え⁈ 大蛇のしっぽを⁈」 「あぁ、だからそれ以来、大蛇はビビって巨人族の船には手を出してこない。ああやって恨めし気に遠くからみるだけだ」  ミッドガルドを取り囲むほど巨大だとすら言われた大蛇の尻尾を切るなどとは、ヨトの巨人族は恐ろしく規格外だ。 「瞬きしないんですね? 目乾かないんでしょうか?」 「俺が知るか」  ロキが下ろして欲しいとヴァクの肩を軽く叩くと、ヴァクは少々不満気にロキを甲板の上に立たせた。  自分の首ほどまで高さのある柵に手をかけて、ロキは夜の海を眺めた。  船尾を振り返っても、暗さのせいでもうミッドガルドの形は見えない。  寒さで肩を窄めるロキの傍に、フェンがもふもふの白い毛並みで寄り添うと、触れたその部分が温かかった。  

ともだちにシェアしよう!