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7-5.
ロキはヴァクが驚いて力を緩めたその隙に、するりとその腕から抜け出した。下履きを引き上げ、ベッドの足元に脱いでいた上着を掴むと転がるようにベッドから降りた。しかしそこでヴァクに襟首を掴まれてしまう。
「おい、まて!」
するとまた、船体が揺れた。
ロキはヴァクの手を振り払い、船室の外へと飛び出した。
廊下中の船室の扉が開き何事かと他の乗客が状況を伺っている様だ。
ロキはその隙間を縫って、廊下を進み右に左に折れ曲がった。突き当たりの先の「保管庫」の文字があるドアを見つけると、それを開いて中に飛び込んだ。
扉を背にしてうずくまる。廊下からは何事かと動揺する乗客達の声がするが、その中にヴァクがロキを呼ぶ声はない。
ロキは未だに熱の治らない自分の体をかき抱いた。これは風邪などではない。本能的に昂って求めるなど、まるで自分が発情した獣にでもなってしまったかの様だ。
なんていやらしく無様なのかと奥歯を食いしばり、ロキは手にしていた上着を広げて肩にかける。するとそのポケットで、シャラリと音が鳴った。
手を入れてそれを取り出す。それは、ウテナの町で怪しげな「ガイド」と名乗る男に渡された薬だった。睡眠薬を忍ばせていたつもりだったが、今日は取り違えてしまったのだろうか。
『オメガの香りを抑える薬』
その言葉と、怪しげなあの表情が同時に浮かぶ。
ヴァクはロキの匂いに反応している様子があった。それはつまり、女王蜂が雄を引き寄せるフェロモンのようなものなのだろうか。
この薬はその匂いを抑えて、どうしようもない昂りから、解放してくれるのだろうか。
ロキは瓶を眼前に掲げ、中のピンクの錠剤を眺めた。
「怪しすぎる」
見知らぬ人から貰った薬など、危険だ。
そう思って、ロキはそれを握ると上着のポケットに突っ込んだ。
しかし、治らない荒ぶる呼吸を数回繰り返したのち、意を決してその瓶を再びポケットから取り出した。
深く考えることを放棄して、ロキはその薬を一粒手に取り出し、そして口に含むと唾液と共にごくりと喉奥に流し込んだ。
少しの間確かめるようにうずくまっていたが、良くも悪くも特に変化はなかった。
そうしているうちに船体が再び大きくゆれる。衝突したような衝撃音も同時になった。
波に揺られたり、氷山にぶつかったわけではないだろう。もしや、この船は攻撃を受けているのではないかとロキが思ったその時だった。
廊下の向こうから喧騒に紛れて足音がする。ロキは心臓を跳ね上げた。その足音はほとんど躊躇いなくこちらに近づいてくるからだ。
まさかオメガの匂いを辿ったヴァクが追ってきたのかと、ロキは部屋の隅に移動して、膝を抱えて小さくなった。
扉が勢いよく開かれ、廊下の明かりが暗い倉庫の中を照らす。
「ロキ!」
その声に顔を挙げると、薄いブルーの瞳がこちらを見つけたところだった。
「フェン!」
ロキはほとんど無意識に両手を広げてその体に抱きついた。
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