70 / 155

10-4.

「この穴ってどこまで続いてるの? 出入り口は一つ?」  ロキが聞くと、子供達はよくわからないというように、首を大きく振ってみせた。 「一番おっきい出入り口しか知らない!」 「あとはね、お掃除穴!」 「お掃除穴?」  先ほども聞いたそのフレーズをロキは聞き返した。 「お掃除穴ってなに? ゴミ捨て場かなんか?」  子供達はロキの問いに少し迷ったような様子を見せて曖昧に頷いた。 「真っ黒い大きな穴だよ! 大人たちはそこにゴミや悪い人を放り投げたりする!」  やはりゴミ捨て場か、とロキは顎に手を置いた。ゴミと罪人の遺体を一緒に放り投げるなんて、巨人族とはなんと野蛮な性分なのだろうか。 「危ないから子供は近寄っちゃダメって!」 「そうなの! ゴミのお化けが出る!」 「お化け?」  大人が子供を近寄らせないためについた嘘だろうか。ロキは半信半疑で問い返した。 「そう! お化け!」 「なんかね、え~、とか、う~とか、お化けの声が時々穴の奥から聞こえるの! すっごく怖いの!」 「ほほぅ……」  なるほど、それは風の通る音ではないか。きっとその音を、子供達はお化けの声と言っているのだ。  だとすれば、その大穴は外に繋がっている可能性がある。しかし、ゴミや悪人を捨てる場所など、脱出路とするには得体が知れなさすぎるので、やはり正面の出入り口から抜け出すのが無難だろうか。  ロキはそんな風に考えを巡らせた。 「オメガは今日のパーティーでるの?」 「ぞくちょうのパーティー!」 子供たちの唐突な問いに、ロキは眉を上げた。 「え、いや。俺は出ないと思うけど」 「そーなの? みーんな出るっていうのに、オメガは出ないの?」 「ごちそういっぱいなのに、かわいそう」  子供たちはロキを憐れむというよりも、少し揶揄うような口調で言った。 「そうだな。俺も食べたいよ、ごちそう。だからここを開けてくれない?」 「「だぁめっ!」」 「チッ」  どうにも親たちがうまく躾けているようで、子供たちは言いくるめられそうにない。 「かわいそうだなー! 今夜は珍しいお肉が手に入ったって言ってたよね!」 「そうだった! 言ってた! えっ、てことは、早く行かなきゃ無くなっちゃう⁈」 「大変だ! 無くなっちゃうかもぉ!」  子供たちは突然勝手にあせりはじめた。  ロキはもはや相手をする気持ち薄れ、あぐらをかいた膝の上に肘を置いて頬杖をついている。 「大変大変!行かなくちゃー!」 「おっきいワンちゃんのお肉無くなっちゃうっ!」 「……えっ?」  ロキは驚き顔を上げる。  しかし、子供たちはキャッキャと突きあいながら、通路の向こうへ走り出した。 「ま、まって! ワンちゃんって、犬? 犬のお肉⁈」  格子にしがみつき、隙間から手を伸ばしたが、子供たちには届かない。 「そうそう! 犬のお肉!」 「おっきいお肉久しぶり! かいたいショーやるんだって!」 「なんてことだっ‼︎」  ロキは叫び握った格子を揺り動かした。  しかし、すでに子供たちは通路を進みその姿は見えなくなって、やがて戯れ合う声も聞こえなくなった。 「おい! まって! 誰か! 開けてくれ! 犬なんて食べちゃダメだ! お腹を壊すぞ!」  誰の気配もなく、ただ壁に当たったロキの声が僅かに反響するだけだ。 「ダメだ! そんなっ! フェンが……食べられちゃう……」  解体ショーだなんて……  想像しかけてロキは慌てて頭を振った。

ともだちにシェアしよう!