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10-3.

     ちくちくと不愉快な感触の藁の上で、ロキは自らの肩を抱いてうずくまっていた。目を開けたのは、何やらころころと音が聞こえたからだ。   「イテッ」  額に何かがあたり、ロキは小さく声を上げて体を起こした。周囲に小石が散らばっている。 「ひゃっ! 起きた!」  高くて舌足らずな声がする。  ロキは格子の外に目をむけた。誰もいないかと思ったら、壁の横からこちらを覗き込むように小さな頭がのぞいている。一つではなく二つだ。 「子供?」 「ひゃっ、喋った!」  怯えているのか面白がっているのか、どちらかわからない口ぶりだ。  ロキは上着の中で左腕に鱗を纏う。  袖口から二枚ほどそれを取り出して、手のひらに乗せ、格子の隙間から差し出してみた。  すると二つの頭がひょっこりと姿を表した。巨人族の子供だ。顔は幼いのに、体格が人間の子供よりもしっかりとしている。一人は髪が長く、もう一人は耳が出るほどの短髪だ。二人とも可愛い顔をしているが、女の子は生まれないと言っていたので、きっと男の子なのだろう。 「キレー」 「光ってる」  ロキが格子の近くまで手を伸ばすと、二人の子供は手のひらの鱗を興味津々覗き込んでいる。 「あげるよ」  そう言うと、二人は目を輝かせた。  そして小さな指を鱗に伸ばす。しかし、それが触れる前にロキはぐっと手のひらを握り鱗を隠した。 「その代わりに、ここを開けてくれないかな」  そう言うと、二人の子供は顔を見合わせて瞬いた。 「あなた、オメガでしょ?」  髪の長い子供が言った。 「大人たちが、オメガは殺すかハラマセルかで、さっき揉めてたよ」  子供の前でなんて話をしているんだと、ロキは眉を寄せた。 「それは違うよ、俺はオメガじゃない。みんなが勘違いしちゃってるみたいなんだ」  ロキはできる限り優しい言葉を選び穏やかな調子で言った。 「勘違い?」 「そう、だから助けてくれない? 俺には迎えに行かなきゃ行けない人がいるんだけど、ここに閉じ込められてこまってるんだ」  二人の子供はまた顔を見合わせた。 「うっそだー」 「うん、うそだねー」  口を尖らせながら、子供は口々にそう言った。 「嘘ついたら、お掃除穴に落とされちゃうんだよ!」 「ぽいぽいって!」  簡単には騙せないようだ。  唸りながらも拳を開いて、子供達に鱗をやった。  二人は指で鱗を摘みながら、綺麗だ薄いだお母さんに見せてあげようだなどと楽しそうに話している。 「なあ、君たちはずっとこの穴の中に住んでるのか?ここがヨトの街なの?」  ロキはとりあえず何か糸口を探すべく、子供達に問いかけた。 「うん、そうだよ! でも、僕らが生まれる前にはヨトの街は外しかなかったって!」 「冬が厳しくなったから、もうひとつここに街を作ったんだって! ちょっとずつ掘り進めて、いずれは外の街の人もここに移る予定だって!」  子供達は外のヨトが崩壊したことを知らないようだ。きっとほとんどをこの穴の中で過ごしているのだろう。

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