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10-6.

 ロキの体は容易に男の網に捉えられ、傍にあった大きなタライの中に乱暴に入れ込まれた。 「あとは、タコだな……おっし、これでおっけー」 「ばかやろ、そりゃイカだ」 「あん? 似たようなもんだろ」 「まあ、いいか」 「それにしても、これ立派なマスだな?」 「それは鮭だろ」 「え? 何が違うの」 「いーから、さっさと持ってけ」  男がタライを抱え上げると、水がバシャバシャとこぼれ落ちた。すぐに捌かれなくて助かったが、このままでは素揚げにされてしまう。  焦りぐるぐるタライの中を泳ぎ回るロキの姿に、またイカが「落ち着けよ」と言いたげに悟ったような目を向けた。  人気がなかった牢屋周辺とは雰囲気が変わり、ザワザワと人の話し声や息遣いが聞こえている。  タライから見上げる景色しかわからないが、何人もの巨人族が通りすがりに覗き込んできて、みな一様に御馳走を待ち侘びるような表情を向けている。  狭かった天井が開け、どうやら広い場所に出たようだ。ここがパーティー会場だろうかと思っていたら、ロキの入ったタライが台の上に下ろされた。  会場の端に用意された調理コーナーのような場所だ。そこから、広場が見渡せる。  会場には数十名の巨人族らが集められていた。その中には人間の女性や、先ほど牢にきた子供達の姿もある。  壁際の一段上がった場所にある大きな椅子の上に、雪だるまのような巨体が座っていた。  がっしりと言うよりも、《《もっちり》》とした体は、腹や乳が肉を纏って垂れているのが衣服の上からでも観て取れた。  この会場はその男を中心に宴席が設けられているようだ。つまり彼がヨトの巨人族の族長で、ヴァクの言う《《オヤジ》》なのであろうことが見て取れる。  そして、そのヴァクは族長の席のすぐ横に用意されていた長テーブルの席についている。  最も族長に近いその席は、他の席よりさらに豪華な料理や大量の酒瓶が載っていて、おそらくヨト族のなかでも、族長に近しい人間が座っているのだろう。 「さぁ! オヤジ! 今夜はオヤジのために最高の料理を用意したんだ! 思いっきり楽しんでくれ!」  一人の男が両手を広げて、ホール内にアピールするかのような大声で言った。  どうやらヴァク以外も、族長のことをオヤジと呼ぶらしい。 「あぁ……」  族長は雪だるまみたいなマイルドな見た目からは想像がつかないほどの低い声で唸るようにそう答えた。  一切の笑顔を浮かべないままの族長の様子に、司会役らしき男は少し戸惑った様子を見せている。しかし、気を取り直したように、パンと両手を叩いて合図をすると、向こう側の両開きの扉が開かれた。  大きな巨人族が三人がかりで台車を押している。  その上には大きな鉄の鍋が載っていた。三人の男たちは注意深く鍋を持ち上げると、族長の前にたかれていた火の上にその鍋をぶら下げる。煮えたぎった油の匂いがロキの方まで届いていた。  そしてまた、視界の男がパンと手を叩く。  今度はロキのいる調理台の脇の両開きの扉が開かれた。今度は一人の巨人族の男が台車を押している。その上には、白くてふかふかの毛並みを纏った狼が、気を失ったように伏せていた。 ーーフェン!  ロキはタライの中をバシャバシャと動き回った。 「活きがいいマスだな」 と傍の巨人族が呟く。 「なんだそれは」  また見た目にそぐわぬ低い声で、族長がフェンを指差した。  自分が主役の誕生日パーティーだと言うのに、族長は先ほどからずっとつまらなそうに、時折ため息までついている。 「犬です!」  台車を押していた男が威勢よく答える。 「んなこたわかってんだよ。犬なんて食えんのかって話だ」  族長は舌打ちしながら言った。

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