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18-10.
「それでオーディンは同じオメガの俺のことを、あんな風に扱うのか」
「そうだろうね」
――ぇ~ぅ~……ぁ~…
再び冥界の風の音が地下牢に響いた。
「ねえ、ミーミル、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
ロキがそう切り出すと、ミーミルは沈黙したまま表情だけをやわらげた。
「白い狼……フェンリルの居場所をあんたは知っていたのか?」
ミーミルは答えず、微かに目を細めた。ロキは言葉を続ける。
「あいつの飼い主を殺して首輪を解いたのはあんただよな? それで、道中何度も、俺とフェンを助けた。俺だけじゃなくて、フェンリルのことも死なせないようにしているみたいだった」
何も答えないミーミルの様子をロキは肯定と捉えた。やはり彼はロキとフェン両方に干渉していたのだ。
「でも、わからないんだ。オメガに器を作らせるよりも、もう存在している器……フェンリルを連れてくる方が効率がいいって理由なら納得がいく……けど……」
一度唾を飲み込み、ロキは考えを整理しながら次の言葉を紡いだ。
「オーディンもトールや他の神殿の神も、フェンリルの存在に気づいてない。それは、あんたが伝えてないってことだ」
仮にオーディンが狼であるフェンリルの器を拒否したとしても、他の神はロキをここに連れてこようとしたように、フェンリルにも同じ事をするはずだ。でも、それをさせないように、ミーミルはフェンの命を救いつつも、オーディンや他の神々の手には渡らないようにしていた。
「どうして?」
ロキがそう問いかけると、ミーミルはようやくクスリと笑みをこぼした。
「フェンリルは器になってもらっては困る。彼には別の役目があるから」
「……別の……役目?」
ミーミルの意図が分からず、ロキは眉を寄せた。
「そう、別の役目」
「な、なんだよ……その、別の役目って」
「それから、ロキ。オーディンの器は必要ない」
「……は?」
ミーミルはロキの問いを無視して話を続けた。先ほどまで穏やかだと思っていた微笑に、一気に怪しげな色が浮かんで見える。
「必要ないって……は? な、なんで? だって、オーディンの新しい器を作らないと、黄昏は……」
そこまで言ったロキの前に、ミーミルが唐突にピタリと手をかざした。ロキはその仕草に驚き、思わず言葉を止める。
「来たよ」
ミーミルが言った。
その口角は興奮を隠しきれないかのように、ピクピクと震えながら持ち上がっていく。牢獄の薄闇の中でミーミルの双眸が怪しい光を放っていた。
「な、なにがっ……」
ロキが戸惑い疑問を口にしたその直後、神殿に続く階段の上部から忙しない足音と、神々の騒めきが聞こえた。
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