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20-1.奪われた光

◇◆◇◆  陽光が降り注ぐ。  空は青く、世界を繋ぐシマトネリコの大樹が青々とした枝葉を広げていた。  |鶫《ツグミ》は華奢な嘴を突き出し、時に羽ばたき、時に翼に風を集めながら、切り立った崖上にある白亜の神殿に舞い降りる。  肩から流れ落ちるような漆黒の髪、光を孕んで透き通る薄いブルーの双眸。その最高神の肩に、鶫は降り立ち羽を休めた。  オーディンは神殿の中庭の椅子に腰掛け、居眠りをしていたようだ。  頬に擦り寄る鶫に気がつくと、その白く長い指が鶫の体を包んで肩から持ち上げた。 「いないと思ったらまたどこか飛び回っていたのか」  オーディンは掴んだ鶫を見下ろし言った。  鶫は惚けるように首を傾げ、直後するりと翼をしまう。四肢を伸ばし、背後で編み込まれた栗色の長髪を振りながら、ロキはオーディンの膝に座り、首に腕を絡めた。  オーディンの濃紺の長衣と、ロキの纏った白い長衣が互いの存在を主張するかのように重なり合った。 「少し気晴らしに神殿の周りを散歩してただけだ」  ヘーゼルの瞳をはらんだ瞼を細め、ロキは陶器のような白い肌に悪戯な笑顔を作った。  漆黒の髪を指に絡めながらオーディンの両頬に手を添える。わざと額や鼻先を擦り付けているが、自分から口付けをしないのは、ロキがオーディンを揶揄う時の常套手段だ。 「あまり無闇に飛び回るな、間違えて弓で射られてもしらんぞ」 「なんだ、寂しかったのか? 可愛いやつだな」  不満げに眉を寄せるオーディンの態度は気に留めず、ロキはぐしゃぐしゃとオーディンの頭を撫で回した。 「昨夜はもう無理だというから勘弁してやったのに、元気そうだな、ロキ?」  オーディンはロキの手首を掴んで動きを止めると、意地悪く口角を上げて顔を寄せた。 「今から可愛がってやろうか?」 「なんだよ、こんな昼間っから?」  そう言いつつも、ロキは啄むようなオーディンのキスに応える。オーディンの手がロキの腰に周り、もう一方が、長衣の裾を捲り上げそのしなやかな脚を撫でていく。 「おいおいおいおい、こんなところでおっ始めるなよお二人さん!」  聴き慣れた声に、ロキとオーディンは動きを止めた。  オーディンの舌打ちを聞きながらロキが顔を向けると、そこには見知った顔があった。  後ろ髪だけをやや伸ばした栗色の髪に、グリーンの瞳、精悍な面立ちで真っ白な歯を浮かべた表情はこの男、光の神バルドルのデフォルトだ。  誠実で気立がよく溌剌としているのはバルドルの長所であるが、一方で空気が読めない上に声がデカいという側面も持ち合わせている。 「バルドル、邪魔をするな」  オーディンは捲り上げたロキの裾を戻しながら、ため息混じりにそう言った。 「どうしたの? 何か用事? どっち?」  ロキは自分とオーディンを交互に指差しながら、バルドルに尋ねた。 「あーんと、両方だ! オーディン、トールが探してたぞ! ヴァン神族との定期会合がどうとかって言ってたな!」  常に腹から出すようなバルドルの声に続いて、オーディンの舌打ちが聞こえる。 「それからロキ! 新しいのを作ったから見せてくれるんじゃなかったのか?」  バルドルの言葉で、ロキは思い出したというように手のひらに拳を打ちつけた。 「そうだったそうだった」 「そうだったって、お前から誘ってきたんだろ!」  ロキはオーディンの膝から降りて立ち上がると、誤魔化すようにバルドルに笑顔を向けた。

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