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20-7.
◇
昼間は陽の光を集めた窓は、今は月明かりでうっすらと室内を照らしている。
人払いをしたロキは、傍のカウチに腰掛け、未だ眠り続けるフェンリルの顔を眺めながら、穏やかに揺籠を揺らしていた。
時折あくびをする小狼の口の中にはまだ歯がない。それが愛おしくて、ついつい手を伸ばすとツンと尖ったその口元があむあむとロキの指先を食んだ。
「なんだ、明日からしばらく不在にすると言うのに、今夜は別々に寝るつもりか?」
背後から声がした。
オーディンはしばしば気配を消すので、ロキはもはや驚きもしない。振り返らないまま、ロキは小さく笑みをこぼした。
「もう抑制剤飲んだから、匂いは出ないよ?」
「それは重要なことか?」
オーディンはそう言ってカウチの肘掛けに腰掛けると、ロキの肩に腕を回した。
薄明かりの中で、オーディンの薄いブルーの双眸が、揺籠の中に向けられる。
「猫……?」
「ふふっ、違うよ、狼」
「小さすぎやしないか」
ロキは肩に置かれたオーディンの手に自らの手を重ねた。
「うん、小さくなっちゃった」
苦笑したロキの頭を抱えるようにオーディンが撫で、額に音を鳴らしてキスをした。
まともな器を作らないロキは、オメガとしての役目を果たしていないと言う声は、オーディンの耳にも届いているはずだ。
ロキは自分が創った子達を出来損ないというつもりは毛頭ないが、それでもオーディンへの後ろめたさは感じている。
「ロキ、お前がやりたいなら構わないが、もし無理をしているのなら、もう器は創らなくてもいい」
「え?」
「勘違いするな? 俺はコイツらを愛してはやれないが、疎ましく思っているわけじゃない」
オーディンは言った。
「ただ、もしかしたら、お前は無意識に器を歪めてるんじゃないかと、そう思った」
「歪めてるって……」
オーディンの物言いにロキは眉根を寄せた。
取り繕うように、オーディンが回り込み、カウチの座面にロキに寄り添うように腰を下ろした。
「オーディン、俺がわざとこの子達を獣の姿にしたり、不自由にしたり、小さくしたりしてるって、そう言いたいのか?」
実際、神殿内のオーディンの寵愛を受けるロキに嫉妬した輩がそんな噂をたてている。
「違う、無意識にと言ってんだろうが」
オーディンは少しもどかしそうに、語気を強めた。
「無意識にって……なんで、俺が無意識にオーディンの邪魔をしたいって思ってるってこと?」
「違う、そうじゃない」
オーディンはため息をつき、ロキを抱き寄せるとその背中を撫でた。
「お前は、お前が創ったこいつらのことを愛してると言ったな?」
「うん、言った」
「俺のことも、愛してると言ったな」
「……うん、言った」
ロキは俯きつつも、確かにオーディンの問いに頷いた。
「俺がお前の創った器のどれかに、魂を移し替えるってことは、お前にとっては愛するものが愛するものを食らうようなものだ」
オーディンはまたフェンリルの眠る揺籠に目を落としながら、静かな声音で言った。
「それが、お前をどんな気持ちにさせるかくらいの想像はつく」
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