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20-6.
神も夢を見る。それは一度であればただの夢だ。しかし、何度も繰り返し見る夢には意味がある。
「予知夢って……こと?」
ロキの問いにバルドルは頷いた。
預言者は自らの見た予知夢を予言として伝えているが、それと同じことが稀に他の神にもおこるのだ。
「そんな深刻な顔して……いったいどんな夢だったんだよ?……あっ、まさか、ヴァナヘイムでオーディンに何か危険がっ?!」
ロキは焦り、バルドルの肩に手を置きその体を揺らした。
「いや、違う」
バルドルが首を横に降り、ロキはひとまず胸を撫で下ろした。
「俺が見たのは、たぶんもっとずっと先の出来事だ」
「ずっと先?」
ロキの問いに、バルドルが頷く。
「ああ、ずっと先……巨大な白狼……」
「白狼……フェン……リル?」
またバルドルが頷いた。
「巨大なって、あ、じゃああの子大きくなるんだねっ⁈ 良かった! とても小さいし、ずっと眠ってるから心配してたんだ!」
そんな真剣な顔をするから、悪い話かと思ったと、ロキはバルドルの肩を叩いた。
テーブルの方へと歩み寄ると、新しいグラスを二つ返して、自分とバルドルの分の水を注ぐ。
入れ終わったところで、ロキははたと気がつき動きを止めた。
「あ……もしかして、大きくなったから、オーディンがフェンリルを器に選ぶって……そういうことか?」
バルドルを振り返り、ロキはそう尋ねたが、バルドルはまた首を振った。表情はまだ固く結ばれたままだ。
「じゃあなんだよ? そんな神妙な顔しちゃって……もったいぶらないで教えてくれよ」
ロキは浮かんだ不安を払拭するかのように笑うと、グラスの水を喉に流し込んだ。
「ロキ……オーディンは、フェンリルに食われる……」
「……は?」
ロキがグラスをテーブルに置いた音が、室内に響いた。
「それだけじゃない。オーディンが食われて死んだ後、巨人族らがアースガルドに押し寄せて、ユグドラシルが燃え上がる」
「な……はっ? な、なにそれ、ユグドラシルが燃える? え? そ、そんな……燃えたら、ど、どうなっちゃうんだ……?」
上擦る声でロキは尋ねた。
バルドルは、視線を床にそらし、体の横で拳を握りしめると眉を寄せた。
「ユグドラシルは世界の支柱だ。それが燃えれば、全て終わる」
「おわ……る?」
ロキはバルドルの顔を覗き込んだ。
嘘をついていたり、冗談を言っている様子はない。そもそも、バルドルはこんな趣味の悪い冗談を言う男ではないのだ。
「白狼と、そしてお前ではないオメガがオーディンを殺す」
「俺ではない、オメガ……?」
「そうだ、その二人が神殿に終焉を運び込むんだ」
「そ、そんなっ……まさかっ……」
「当然、俺も最初は信じていなかった。ただの悪夢だとそう思った。しかし、毎夜繰り返し同じ夢を見るんだ。何度も何度も……これはただの夢じゃない。俺自身がそう確信できるほどに……。この終焉の夢は未来に起こり得る事実だ」
確信したと言う言葉通り、バルドルは語気を強めた。
「ロキ、俺は……神々の黄昏 を予言した」
バルドルの言葉に、ロキはごくりと唾を飲み込んだ。
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