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遠くの方で声が聞こえるような気がした。
誰だろう。何かの物音だろうか。
目を閉じたまま少しずつ現実に引き戻されていく。
「──おかーさまっ!」
腹部辺りを、強く叩かれる。
この遠慮のない、二つの感覚に覚えがある。
急速に現実へと引っ張られた。
視界の先には、腹部の上に乗って揃ってにこにこ笑っている顔が映った。
「⋯⋯新、真。こんな時間にどうしたのですか?」
正確な時間は分からないが、まだ部屋が薄ぼんやりと暗かったことから、日も昇ってない時間なのだろうと推測する。
「おかーさまよりもさきにおきたのー!」
「そうなのですか。⋯⋯ですが、もう少し寝ましょうね」
「やだ! おとーさまよりもおかーさまをぎゅってしたい!」
「まーも、あーたよりもぎゅってしたい!」
「あーが!」「まーが!」
あ、これは。
葵の上で言い合いになる上に、バンバンと容赦なく腹部辺りを叩いてくる。
二人に乗っかられて嬉しいと普段は思うが、状況が状況なだけにちょっと遠慮して頂きたい。
「ほら、二人ともそんなにもうるさくしたら、お父様が起きてしまいますよ」
二人が葵のことを起こした時から起きているのだろうと思いつつ、「だってぇー」と揃って言いたげに不機嫌そうな顔を見せる二人を窘めつつ、抱きかかえながら起き上がった。
この様子だともうひと眠りする気はないだろう。
何か暇潰しになるものないかと視線をさ迷わせる。
まだ夫が寝ているということにして、玩具などで遊ばせようにも同じ部屋内で遊ばせられないから、その案はすぐさま除外した。
他にあるとしたら。
ふと、締め切られた障子が目に入った。
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