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夢見る俺たちのオメガバース (14)
「んっ」
ゆっくりと指を引き抜くと、肌に吸い付いていたそこがちゅぷんと音を立てて離れた。
とろりと溢れて出てきた白濁をティッシュで優しくぬぐい取り、少しずつ閉じかけようとしているそこにもう一度指を差し込み、ぐるりと中をかき混ぜる。
「あ……っ」
「ごめんなさい。もうちょっとだから、我慢して」
うつ伏せになった理人さんの背中が、ふるりと震えた。
ーーいい加減挿れやがれ。この変態野郎……っ。
理人さんの言葉は、俺の理性を見事にプッツンさせた。
俺は、いつもみたいにかわいくおねだりされると思っていたのだ。
それなのにいきなり『変態』とか煽ってきたりするから望み通りすぐに挿れてあげたし、理人さんを仰向けに組み敷いてもう一回、さらに俺の上に乗せてまた一回。
気がついたら、三回分のアレを理人さんの中に注いでしまっていた。
「ごめんなさい! 責任取って俺が綺麗にします!」
理人さんは心底嫌そうな顔をして、でも何も言わずに、のそのそとベッドにうつ伏せになった。
形のいい尻を左右に割り、柔らかいままのそこにそっと指を差し入れると、四角い後ろ姿がさらに角張る。
心の中で真摯に詫びながら、でも理人さんに腹を下したり辛い思いをさせるわけにはいかないから、遠慮なく中をまさぐっていく。
理人さんは時折甘い息を漏らしながら、俺にされるがままだった。
しばらくして何も出てこなくなると、今度はタオルで理人さんの身体を隅々まで拭いていく。
コップ一杯の水を飲ませて最後の任務を終えると、俺はようやく理人さんの隣に寝転がった。
「理人さん、聞いてもいいですか」
「……なに」
「なんで、今日は抵抗しなかったんですか?」
理人さんは、自他ともに認める〝性欲が薄い男〟だが、決してエッチなことが嫌いなわけじゃない。
でもこれは嫌だという明確な線引きはあって、そのひとつが事前の〝準備〟だ。
それなのに今夜は、その〝準備〟も俺にさせてくれたし、ここがネオ株の目と鼻の先だったことにも、中に出したことにも、後処理を手伝うことにも、理人さんは何も言わなかった。
理人さんが俺のことが大好きでたまらないことは知っている。
でも、きっとそれだけじゃない。
理由を求めて理人さんを見つめると、ふたつのアーモンド・アイがゆらりと揺れた。
「佐藤くんが……あんな表情 するからだろ」
「あんな顔って?」
「今にも泣き出しそうな顔だよ!」
そうか。
ーー今すぐ抱かせてください。
あの時、俺はそんなで表情 で理人さんに〝お願い〟していたのか。
情けない自分の姿を思い浮かべ、思わず苦笑する。
すると、理人さんは身体をくるりと回転させ、俺に背を向けてしまった。
「また俺が、何かしたんだろ」
「えっ?」
「航生の話、したから……悲しく、させたんだろ」
ーーごめん。
くぐもった声が、震えながら言った。
ああ、なんてことだ。
全然違うのに。
不謹慎だとわかっていても、罪悪感を上回るレベルで愛おしさが募ってくる。
だって、
こんなのかわいすぎるだろこんちくしょう。
「理人さん……」
耳たぶに唇を寄せると、理人さんの後頭部がびくりと震えた。
「大好き」
ベッドと脇腹の間に腕を差し込み無理やり抱きしめると、胸の前で交差した腕を指が撫でる感覚がして、すぐにきゅっと握り込まれた。
一緒に心まで掴まれたような気がして、俺の鼓動が乱れる。
「ごめんなさい、木瀬さんは関係ないです」
「え……そう、なのか?」
「はい。ただ、どうしても理人さんを抱きたかったんです」
「……なんで?」
「理人さんは俺のものだって、確認したかったから」
「な、んだよ、今さら」
そう、今さらだ。
でもあの小説を読んだら、本当に理人さんが俺じゃない誰かに抱かれたような、そんな気持ちになってしまった。
だからどうしても、したかったんだ。
〝お清めセックス〟が。
そして、どうしようもなく嬉しかった。
理人さんが応えてくれたことが。
「今夜はこのまま泊まっていきません? 明日は土曜日だし」
「佐藤くんは仕事あるだろ」
「昼からだから、朝の新幹線に乗れば十分間に合います。それに……まだ、足りないから」
細い首筋にふうっと息を吹きかけると、理人さんはすっかり押し黙ってしまった。
でも、俺の腕の上を行ったり来たりする指先が、確かな期待をはらんでいるのがわかる。
俺は溢れそうになる笑いを堪えながら、理人さんの答えを待った。
「わかった。その代わり……」
ギシギシと、ベッドが大きく軋む。
理人さんは俺の腰の上に跨ると、ニヤリと口の端を上げた。
ーー今度は、俺がする。
*
その後、『お清めセックスR 』を思う存分堪能したあと、俺たちは眠りについた。
翌日、新幹線の窓から生まれたての朝日を眺めながら東京に戻り、そのままベッドにダイブして一緒に二度寝した。
理人さんの体温に包み込まれながらまどろむ時間があまりに幸福感に満ちていたから、俺はすっかり安心し切っていた。
だから、
「佐藤くん、これ……なに?」
「え、あ、そ、それは……!」
まさか宮下さんに丁重に返品したはずの〝新刊〟がこれまで人知れず発行されていたらしい数々の〝既刊〟とともに俺の鞄に突っ込まれていて、
「もしかして、オカズにするつもりだったのか? 俺がいるのに……?」
それを見つけた理人さんにあらぬ疑いをかけられた上に、
「佐藤くんのエッチ! すけべ! 変態!」
「だからこれは違うんですって! 俺が買ったんじゃなくてっ……」
「黙れ、浮気者! このっ、このっ……筋金入りの変態野郎!」
「罵るのやめてください! 興奮するから!」
「……」
「あ、いや、違っ、今のはつい本音が! じゃなくて……!」
「佐藤くんのバアアァァァーーーカ!」
「ま、待って! お願い待って!」
「ついてくんな! 佐藤くんなんかもう知らない!」
「待ってください理人さああぁあんーーッ」
一週間どころか一ヶ月の間まともに触れさせてもらなくなる未来がやってくることを、俺は、まだ知らない。
fin
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