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第26話 オナホドール
子ネコがミルクをチロチロと舐めるように、聖は唯人の亀頭をまんべんなく舐めた。
「あ……あ……くそっ、ヤバ。気持ち良過ぎる。戦国の武将が稚児にハマった訳だ……」
仁王立フェラで、優越感を持って聖を見下ろすつもりの唯人だったが、あっと言う間に余裕を失ってしまった。
「……もういい。ローテーブルの下にゴムがあるから持ってこい」
聖は従順な犬のように唯人の指示に従う。
唯人はソファーに座るといった。
「ゴムを着けたことあるか?」
聖は首を横に振る。
「だよな、童貞だもんな。教えるから、俺に着けてみ」
「そんなの着けなくていいです。男だし、生でいいから」
だが、唯人の返事は意外なものだった。
「あのな、聖は若いから知らんかもしれんが、病気って恐ろしいもんだ。自分は大事にしろ。コンドームが防ぐのは妊娠だけじゃない。エイズって、聞いたことあるだろ?」
「はい」
「エイズはな、七割方が男同士でヤッたのが原因なんだと。聖が言う通り妊娠しないから、生でヤリまくった結果だよ。確かに聖は童貞だから俺は安全さ。だけど俺は、いろんな女とヤリまくっているから、どっかで感染した可能性が無いとは言えん」
「もしかして、オレの身体を気遣って……」
「当たり前だろ」
もともと聖はチョロい。すっかり唯人にキュンときてしまう。
指示された通りに黒の魔道具にコンドームを装着すると、聖は唯人の腰に跨る。
そして、先端を肛門にあてがうと、ゆっくりと身体を落とした。
「ウワッ……何てキツさだ。無理すんな、痛かったらやめろよ」
「ハァ、ハァ……大丈夫、ローションのおかげで苦しくないです……アアァ!」
マドラーとは桁違いの太さのモノが、直腸のヒダを掻き分けて聖の体内へと進入してくる。
とてつもない圧迫感に、目の前に星が瞬いた。
そして、唯人のカリ首が前立腺部分を通過する時、痺れるような快感が背筋から脳天へと駆け上がる。
「ああ、イク! ごめんなさい、イッちゃいます! あああ!」
性器には指一本触れられることなく、ただの一突きで聖は射精した。
唯人の顔面に、白濁した粘液が舞い落ちる。
射精と連動して直腸括約筋が痙攣し、唯人のモノを容赦なく締め付けた。
「あ……あ……あああ、搾り取られるぅ! ガハッ!」
唯人の亀頭が聖の中でもう一回り巨大化したかと思うと、次の瞬間激しく痙攣した。
ゴム越しでも射精の勢いと精液の熱さは凄まじく、直腸の中で黒の魔道具は遠慮無しに暴れ回る。
それは容赦なく聖の前立腺をいたぶり、連続射精へと導いた。
「ダメぇ! そんなにビクンビクンしないで! もうダメ、死んじゃう……また……イクッ!」
精液が再び空中へと舞い上がった。
唯人の顔面に飛び散った自分の精液を聖は舐め取る。
「ごめんなさい、2回も顔射して」
「構わんさ。聖の精液なら気にならんよ。それより、自分の精液舐めるほうが抵抗ないか?」
「ううん、自分のせいだから」
舐めながら、改めて唯人の整った顔立ちを再認識する。
「唯人さま……モデルでもアイドルでも、何にでもなれそう」
「声はよく掛かるよ。だけど、賞味期限の短い商品側になるのはゴメンだ。それより、商品を取り扱う側になりたい。ウチのグループ会社にはエンタメ系もあるから、まずはそこのテコ入れをするつもりさ」
この人には敵わない、スケールの大きな男だと、聖は思う。
顔の精液を舐め取る自然な流れで、聖は唯人にキスをした。
絡み合った舌をほどいた後、唯人は余裕の笑みを浮かべる。
「ほらな、聖からキスしてきたろ」
聖は恥ずかしさに唯人の胸に顔を埋める。
「聖……」
「……はい?」
「アイツと別れろ。俺の恋人になれ」
言われると思っていた。
「……ごめんなさい、それは無理。秀平を愛しているから」
優しかった唯人の目つきが変わる。
「俺は愛せないと言うのか?」
「……」
「説明しただろ。聖はアイツの障害でしかない。聖だって、アイツが本気でオリンピックなんか狙うようになったら、ほったらかしで寂しい思いをすることになる。俺なら、絶対に寂しい思いなんてさせない」
「……ごめんなさい。それでも秀平が好きなの」
——どうしてだ? どうでもいい女はハエのように寄ってくるのに、沙奈恵といい、聖といい、本当に愛する者はなぜ俺のものにならないんだ?
怒りとも、絶望とも思える感情がフツフツと湧き上がる。
「俺は聖の何だ?」
「唯人さまは……ご主人様です」
「じゃあ、聖は俺の何だ?」
「唯人さまのオナホ、肉便器……好きなようにお呼びください」
唯人は、聖を押し退けて立ち上がった。
「わかった。それなら、今日のオナホの役目は終わりだ。帰れ!」
脱ぎ捨てていたジーンズを拾い上げ、後ろポケットから財布を取り出す。
一万円札が七枚入っていた。
まず一枚、ローテーブルの上に置く。
「タクシー代だ」
それから六枚置いた。
「そしてオナホ代。俺のオナホってことは、俺が抜きたい時にいつでも来るんだ。いいな」
それだけ言うと、唯人はバスルームへ入って行った。
シャワーを浴びて出てくると、そこに聖の姿は無かった。
ローテーブルの上から、タクシー代の一万円だけが消えていた。
唯人は、全裸のままローテーブルを思い切り蹴り飛ばす。
「ツゥ!」
スネに激痛が走り、うずくまる。
そこに、舞い上がった六万円がヒラヒラと落ちてきた。
「チクショー……何でいつもこうなんだ……」
溢れた涙の理由が痛みだけでないことを、唯人は知っていた。
ソファーの上に、聖が着ていたガウンがあった。
思わず抱き締めると、聖の甘く切ない香りが残っている。
「聖……聖……俺を愛してよ……」
壁一面の窓ガラスの外はすっかり暗い。
遥か眼下に広がる大都会の無機質な光が、唯人をなおさら孤独にするばかりだった。
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