26 / 26

第26話 オナホドール

 子ネコがミルクをチロチロと舐めるように、聖は唯人の亀頭をまんべんなく舐めた。 「あ……あ……くそっ、ヤバ。気持ち良過ぎる。戦国の武将が稚児にハマった訳だ……」  仁王立フェラで、優越感を持って聖を見下ろすつもりの唯人だったが、あっと言う間に余裕を失ってしまった。 「……もういい。ローテーブルの下にゴムがあるから持ってこい」  聖は従順な犬のように唯人の指示に従う。  唯人はソファーに座るといった。 「ゴムを着けたことあるか?」  聖は首を横に振る。 「だよな、童貞だもんな。教えるから、俺に着けてみ」 「そんなの着けなくていいです。男だし、生でいいから」  だが、唯人の返事は意外なものだった。 「あのな、聖は若いから知らんかもしれんが、病気って恐ろしいもんだ。自分は大事にしろ。コンドームが防ぐのは妊娠だけじゃない。エイズって、聞いたことあるだろ?」 「はい」 「エイズはな、七割方が男同士でヤッたのが原因なんだと。聖が言う通り妊娠しないから、生でヤリまくった結果だよ。確かに聖は童貞だから俺は安全さ。だけど俺は、いろんな女とヤリまくっているから、どっかで感染した可能性が無いとは言えん」 「もしかして、オレの身体を気遣って……」 「当たり前だろ」  もともと聖はチョロい。すっかり唯人にキュンときてしまう。  指示された通りに黒の魔道具にコンドームを装着すると、聖は唯人の腰に跨る。  そして、先端を肛門にあてがうと、ゆっくりと身体を落とした。 「ウワッ……何てキツさだ。無理すんな、痛かったらやめろよ」 「ハァ、ハァ……大丈夫、ローションのおかげで苦しくないです……アアァ!」  マドラーとは桁違いの太さのモノが、直腸のヒダを掻き分けて聖の体内へと進入してくる。  とてつもない圧迫感に、目の前に星が瞬いた。  そして、唯人のカリ首が前立腺部分を通過する時、痺れるような快感が背筋から脳天へと駆け上がる。 「ああ、イク! ごめんなさい、イッちゃいます! あああ!」  性器には指一本触れられることなく、ただの一突きで聖は射精した。  唯人の顔面に、白濁した粘液が舞い落ちる。  射精と連動して直腸括約筋が痙攣し、唯人のモノを容赦なく締め付けた。 「あ……あ……あああ、搾り取られるぅ! ガハッ!」  唯人の亀頭が聖の中でもう一回り巨大化したかと思うと、次の瞬間激しく痙攣した。  ゴム越しでも射精の勢いと精液の熱さは凄まじく、直腸の中で黒の魔道具は遠慮無しに暴れ回る。  それは容赦なく聖の前立腺をいたぶり、連続射精へと導いた。 「ダメぇ! そんなにビクンビクンしないで! もうダメ、死んじゃう……また……イクッ!」  精液が再び空中へと舞い上がった。  唯人の顔面に飛び散った自分の精液を聖は舐め取る。 「ごめんなさい、2回も顔射して」 「構わんさ。聖の精液なら気にならんよ。それより、自分の精液舐めるほうが抵抗ないか?」 「ううん、自分のせいだから」  舐めながら、改めて唯人の整った顔立ちを再認識する。 「唯人さま……モデルでもアイドルでも、何にでもなれそう」 「声はよく掛かるよ。だけど、賞味期限の短い商品側になるのはゴメンだ。それより、商品を取り扱う側になりたい。ウチのグループ会社にはエンタメ系もあるから、まずはそこのテコ入れをするつもりさ」  この人には敵わない、スケールの大きな男だと、聖は思う。  顔の精液を舐め取る自然な流れで、聖は唯人にキスをした。  絡み合った舌をほどいた後、唯人は余裕の笑みを浮かべる。 「ほらな、聖からキスしてきたろ」  聖は恥ずかしさに唯人の胸に顔を埋める。 「聖……」 「……はい?」 「アイツと別れろ。俺の恋人になれ」  言われると思っていた。 「……ごめんなさい、それは無理。秀平を愛しているから」  優しかった唯人の目つきが変わる。 「俺は愛せないと言うのか?」 「……」 「説明しただろ。聖はアイツの障害でしかない。聖だって、アイツが本気でオリンピックなんか狙うようになったら、ほったらかしで寂しい思いをすることになる。俺なら、絶対に寂しい思いなんてさせない」 「……ごめんなさい。それでも秀平が好きなの」 ——どうしてだ? どうでもいい女はハエのように寄ってくるのに、沙奈恵といい、聖といい、本当に愛する者はなぜ俺のものにならないんだ?  怒りとも、絶望とも思える感情がフツフツと湧き上がる。 「俺は聖の何だ?」 「唯人さまは……ご主人様です」 「じゃあ、聖は俺の何だ?」 「唯人さまのオナホ、肉便器……好きなようにお呼びください」  唯人は、聖を押し退けて立ち上がった。 「わかった。それなら、今日のオナホの役目は終わりだ。帰れ!」  脱ぎ捨てていたジーンズを拾い上げ、後ろポケットから財布を取り出す。  一万円札が七枚入っていた。  まず一枚、ローテーブルの上に置く。 「タクシー代だ」  それから六枚置いた。 「そしてオナホ代。俺のオナホってことは、俺が抜きたい時にいつでも来るんだ。いいな」  それだけ言うと、唯人はバスルームへ入って行った。  シャワーを浴びて出てくると、そこに聖の姿は無かった。  ローテーブルの上から、タクシー代の一万円だけが消えていた。  唯人は、全裸のままローテーブルを思い切り蹴り飛ばす。 「ツゥ!」  スネに激痛が走り、うずくまる。  そこに、舞い上がった六万円がヒラヒラと落ちてきた。 「チクショー……何でいつもこうなんだ……」  溢れた涙の理由が痛みだけでないことを、唯人は知っていた。  ソファーの上に、聖が着ていたガウンがあった。  思わず抱き締めると、聖の甘く切ない香りが残っている。 「聖……聖……俺を愛してよ……」  壁一面の窓ガラスの外はすっかり暗い。  遥か眼下に広がる大都会の無機質な光が、唯人をなおさら孤独にするばかりだった。

ともだちにシェアしよう!