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第4話
城内の一室で、エドガーはルシアンにダンスの指導をしていた。石造りの壁に囲まれた部屋は広く、床には滑らかな大理石が敷かれている。
大きな窓からは柔らかな陽光が差し込み、部屋全体を明るく照らしていた。エドガーは微笑みを浮かべながら、前に立つルシアンを見つめた。
「ホールドの組み方は、両手に重い荷物を持っているイメージ、そう。肩を下げて」とエドガーは優しく指示を出した。
騎士であるルシアンは毎日鍛錬を積んでいるため、体幹がしっかりと鍛えられており、基本姿勢はすぐに習得した。しかし、気を抜くとエドガーはルシアンに見惚れてしまう。
「視線は斜め上、首を伸ばしてーー上手だ」とエドガーは続けた。
「ここまでは完璧だ」
基本姿勢の習得の速さから、ステップも楽勝だろうとエドガーは期待していたが、そうはいかなかった。
「肩が上がっている」「足が止まったぞ」とエドガーは指摘を続けた。
ステップを踏むとホールドが崩れ、ホールドを意識するとステップの足が止まる。剣術のようにはいかないらしい。
厳しい講師ならムチで叩いているかもしれない。エドガーは自分で教えることにしたのは正解だったと思った。
それでも、エドガーはルシアンとの身体の密着を避けたいと考えていた。基本姿勢と基本ステップを習得したら、適当な相手役を用意しようと考えていた。しかし、ルシアンの出来なさすぎにエドガーは自ら女性役を買って出ることにした。「アタシがリードするしかない」と。
カチコチのステップを踏むルシアン。ステップに意識がいくと、握る手に力が入る。
「うっ」とエドガーが呻く。
「すみません」とルシアンが謝る。
足を踏まれる。
「ぐっ」とエドガーが呻く。
「すみません」とルシアンがまた謝る。
その都度謝ってくるルシアンが可愛いと、エドガーは心の中で愛おしさが爆発しそうになる。
「大丈夫だから、足を止めないで」とエドガーは優しく言う。
「はい」とルシアンは応じる。
ルシアンは弱音を吐かず、エドガーだけに甘えるように弱音を吐いていたが、途中で投げ出さず練習を重ねた。何日か練習を重ね、ようやく形になってきた。
一曲踊り終えると、エドガーは息を整えながら言った。
「だいぶ良くなった。今日は三回しか踏まれなかった。」
ルシアンの顔が赤くなり、謝る。
「こんなことなら、子供の頃からダンスを習わせておけばよかった」とエドガーは思った。
ルシアンがこんなに自分好みの男に成長するとは思ってもみなかった。若かったら、と一瞬考えたが、すぐにその考えを否定する。エドガーはルシアンを幸せにしたかった。
「レディーは繊細だから、そっと扱わなくてはいけない。わかったね」とエドガーは優しく言う。
「はい。エドガー様に恥をかかせるわけにはいきません」とルシアンは恥ずかしそうに笑った。
「可愛い可愛いアタシのルシアン。誰かのものになるまで、一緒にいさせてちょうだいね」とエドガーは心の中でつぶやいた。
「剣術ができるからダンスの才能もあると思ったよ」とエドガーは冗談めかして言った。
「決まりが多すぎて、剣術とは違います」とルシアンが答えた。
「そうかい?剣術にも決まりはあるだろう?」
「基礎はあります。でもダンスに比べたら自由度が高いです」とルシアンは言った。
「ダンスも自由にできたらいいのに。」
「自由ねぇ」とエドガーは考えたこともなかった。
突然、ルシアンはエドガーの腰を抱きしめ、ぐるぐると回り始めた。
「こんなふうに」とルシアンは笑いながら言った。
エドガーは驚き、ルシアンの逞しい胸にしがみついた。
「る、ルシアン…!」
静止する暇もなく、勢いのまま高く投げられる。エドガーはルシアンの手をギュッと強く握り、ルシアンもエドガーの手を離さず、遠心力で戻ってきたエドガーをそっと抱き止めた。
エドガーはルシアンにしがみつく。ルシアンの汗の匂いが爽やかで、エドガーは興奮した。逞しい胸板に夢の続きを妄想する。
夢の中で、エドガーはルシアンに抱かれ、その強い腕に包まれている。ルシアンの体温が心地よく、心が満たされる感覚に浸る。ルシアンの逞しい体に身を預けるエドガーは、彼の優しいキスに酔いしれる。
「ルシアン…!」と甘い声音で名前を呼ぶエドガー。
ルシアンは驚き、身体がカッと熱くなる。穏やかだった眼差しが、雄のものに変わる。エドガーを抱きしめ、耳元で熱く囁く。
「エドガー様」
「…っぁあ……!」エドガーの喘ぎ声が漏れる。
二人は見つめ合う。キスできる距離にあった。
エドガーはハッとしてルシアンを突き放す。自分の中にある汚らわしい欲望がルシアンに気づかれてしまっていないか、不安が込み上げる。
「エドガー様」
「こらこら、大人をからかってはいけないよ」とエドガーは冗談めかしてごまかした。
「成人を迎えます。私も大人です。子供扱いしないでください」と拗ねたようなルシアンの声。
エドガーの声が裏返り、咳き込む。
「女性にはしてはいけないよ」と冗談にしてごまかしたが、誤魔化せたか不安だった。
あの胸に抱かれ、愛を囁かれ、それに応えることができる女性は世界一幸せ者だとエドガーは思った。
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