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第3話

エドガー侯爵の書斎は、重厚な木材と古い書物の香りが漂う静謐な空間だった。窓から差し込む月光が、部屋の一角を淡く照らしている。侯爵自身と、側近、老執事の三人がその場に集まっていた。 「パーティーを開くにあたり、一番最初にしなくてはならないことそれは招待する娘の選定と身辺調査だ。大切なルシアンに悪い虫がつかないようにするために」 エドガーはそう言いながら、机に広げられた数々の書類と似顔絵に目を走らせた。 側近には全員の身辺調査を依頼していた。嫌な顔をせず、了承してくれたことに感謝していた。 「侯爵、こちらがローゼンハート領の娘たち、こちらが貴族の娘たちの調査結果です」 側近が書類の束を差し出した。 エドガーはそれを受け取りながら、思ったよりもたくさんの年頃の娘がいることに驚きを感じていたが、その感情を表には出さなかった。 当初はローゼンハート領の娘たちに限定して選んでいたが、それではルシアンの見識が狭まると考え、貴族の娘たちも候補に加えることにした。 「身分が釣り合わないと断られた場合はいかがいたしましょうか?」 側近が心配そうに尋ねてきたとき、 エドガーは微笑みながら 「ルシアンを養子に迎え入れる準備はできていると伝えてほしい。ローゼンハート領の領主にはなれないが、それなりの領土を与えることはできる」 と答えたのだ。 側近が娘たちの調査報告を始めた。エドガーは貴族の娘の似顔絵を一枚ずつ見ていった。 ウィンザー伯爵の次女、アマリア。デュポン伯爵の三女、ソフィア。バーナード男爵の長女、オリヴィア。バーナード男爵の次女、ローザリー。そしてレンブル男爵の次女、カロリーナ。 バーナード男爵の長女の絵を見つめながら、エドガーは眉をひそめた。 「バーナード男爵の長女は随分と奔放だな。ルシアンにふさわしくない、却下だ」 次に次女の似顔絵を見る。華やかさはないが、凛とした美しさがあり、心根の良さが顔に表れている。 側近が続けて報告した。 「長女を反面教師にしているのか、次女の素行は良好です。ただ、ローザリーだけ招待してもオリヴィアがついてくるようです」 エドガーはうなずいた。 「なるほど。親心か、手がつけられないのかのどちらかだな。バーナード男爵には私から念を押しておこう」 側近がさらに情報を提供した。 「花商人の娘は、美人で有名です。若い騎士の中には焦がれている者もいるとか。彼女は城の花を任せている商人の娘です」 エドガーは考え込んだ。 (ルシアンとも面識があるのかしら?もしかしてルシアンには既に好きな人がいるんじゃない?アタシったら、どうして気づかなかったの…) 反省と共に胸がズキズキと痛んだ。矛盾する感情が心を揺さぶる。 (ちょっと、泣きそうだわ…) ルシアンに自分の知らない一面があると想像しただけで悲しさが込み上げてくる。 結婚相手を探すためのパーティーを用意しながら、ルシアンを想い人から引き離したいというドロドロと重い感情が流れ込む。 側近が退室した後、エドガーは執事に尋ねた。 「ルシアンに好きな人がいるか聞いてる?親には言いにくいことでも、貴方には相談しやすいこともあるでしょう?」 執事は首を横に振った。 「いいえ、何も聞いておりません。エドガー様以上にルシアン様のことを知る者はいないと思います」 エドガーは深く息をついた。 「ルシアンと関わりがある娘たちの身辺調査も至急お願いしなきゃね」 これはルシアンのためだと言い聞かせながら、彼は再び書類に目を戻した。大切なルシアンの未来を守るために、これは必要なことだと正当化した。

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