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第6話
エドガーの寝室の応接スペースに隣り合うように座る二人。部屋の中は柔らかな灯りがともり、重厚なカーテンが外界の音を遮っていた。
「ルシアン、報告会は今日で最後にしよう」
エドガーの突然の言葉に、ルシアンは目を見開いた。
「え…」
「もう成人を迎える。子離れをしないといけないようだ。ルシアン、これから自分の時間を大切にしなさい」
ルシアンは呆然としたまま、言葉が出なかった。エドガーはすぐに話題を変えた。
「パーティーまであと一週間か。とても楽し――」
「エドガー様、結婚をお考えなのですか?」
「私が?いや、考えていないが」
「中庭を変更なさるとおっしゃっていたので…」
「あぁ、あれはルシアンの子供の話さ」
「俺のですか?」
「まだ気が早いかな。パーティーで素敵な出会いがあるかもしれないだろう」
エドガーは微笑みながら言った。そのために準備を進めているのだ。
「パーティーには年頃の娘をたくさん招待した。きっちり身辺調査をした娘たちだ。楽しみにしておきなさい」
エドガーは自分の言葉に胸を痛める。
「もっとダンスの練習は必要かな。明日から本番を想定して、女性講師を用意した」
エドガーはルシアンの表情が暗く沈んでいることに気づかない。ルシアンは苦しそうに拳を握りしめていた。
「今日の娘とは面識があるのかい?若い騎士の間では人気があるそうじゃないか」
エドガーは続けた。
「私はルシアンに幸せな家庭を築かせてあげたいんだ。それにーー」
エドガーは出会った頃の、可愛かったルシアンを思い浮かべた。
「ルシアンの子なら可愛いだろう」
「もう、私は必要ないのですか?」
沈んだルシアンの声音に、エドガーは訝しがった。
「ルシアン?」
「もう、可愛くないから。可愛くない俺は必要ないんですか!」
「何を言っているんだ」
「エドガー様は可愛いものがお好きですから」
「私は、ルシアンの幸せを考えてーー」
ルシアンはエドガーを抱きしめた。
「結婚はしません!俺は、ずっとエドガー様のそばにいます!どこにも行きたくありません。おそばにいさせてください!」
エドガーは幸福感から心が揺らいだ。このまま手元にルシアンを置いてもいいのではないか。しかし、すぐに思い直した。見識を広げてあげないといけないのだ。
「ルシアン、家庭を持つこと、守る者を持つことはとても幸せなことなんだ。私の妹エレオーラは子供が三人もいて幸せそうだろう。私が教えてやれなくて申し訳ないが、ルシアンには幸せになってほしいんだ」
エドガーはルシアンの背中を優しく撫でた。ルシアンはエドガーを突き放す。
「子供扱いしないでください。自分の幸せは自分で決めます!」
ルシアンは悔しそうな、悲しそうな、泣きそうな声を絞り出し、部屋を出ていった。
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